中国京劇雑記帳

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京劇演目紹介《失街亭・空城計・斬馬謖》(三国志)

2023/09/30更新

 

三国志 諸葛孔明

泣いて馬謖を斬る

 

 

あらすじ

 三国時代

 司馬懿が魏軍を統べると聞いた諸葛亮は、軍事的重要拠点である街亭の守りを馬謖に命じる。自分の才に慢心する馬謖は、山頂に陣営を置いたことから魏軍に包囲されて街亭を失う。

 司馬懿は勢いに乗じて諸葛亮がいる西城も攻め取ろうとする。窮地に陥った諸葛亮は城門を掃き清めて大きく開け放ち、優雅に琴を弾いて待ち受ける。その様子をみた司馬懿は伏兵がいることを懸念して城には入らず、兵を引き上げる。

 諸葛亮は軍規に照らして、その才を惜しみながらも馬謖を断罪に処する。

 

 

ポイント

 「泣いて馬謖を斬る」という故事はここに由来。

 老生の唱が冴え渡る芝居。

 ききどころはまさに「空城の計」を仕掛けてうたうところ。

 諸葛亮のいちかばちかの賭けに出る決心をするところや後半の馬謖を罰する緊迫した悲しむ場面もみどころ。

 

諸葛亮 老生

馬謖 架子花臉

司馬懿 唱工花臉もしくは架子花臉

王平 老生もしくは武生

 

 

《失街亭》

  最初に趙雲馬岱馬謖王平の四人が登場。皆、「硬靠」を身に付けている。背中には四本の旗。軍を率いている将軍である。

 馬謖は緑色の「硬靠」。頭には「夫子盔」。顔は臉譜が施され、隙間ない豊かな髯の「満髯」。

 続いて諸葛亮が登場する。諸葛亮は陰陽、八卦の配置された対極図が描かれた「八卦衣」という道教を象徴した衣装を身に着けている。頭には八卦が描かれた「八卦巾」。手にはトレードマークの白羽扇。

 

  老獪な司馬懿に対し、要地・街亭を守る任務に名乗り出た馬謖

「小さい街亭ごとき、守り通せます」

と自信たっぷり。

「小さいといってもあそこは軍事的重要拠点だ。くれぐれも気をつけるように」

 諸葛亮は命令の証である令箭を手渡す前に警告を発する。

「陣立ては山の上にしては決してならぬぞ」

 馬謖は意気揚揚と出陣する。諸葛亮は補佐役に王平をつけて、山腹の河近くに陣を取り、直ちに地形図を描いて送るように命じる。

 一方の司馬懿は部下・張郃に街亭戦略を命じる。

 

 全軍挙げて山の上に陣を取ってしまえば、敵に囲まれて終わりである。敵の意表をつく…兵法の定石を逆手にとって山頂に陣を取るといって聞かない馬謖。しかたなく王平は兵を分けることを提案する。

「功を上げてもお前の手柄にはならんぞ」

という馬謖王平は冷ややかに笑い、地図を書いて山頂に陣を取った経過を急いで諸葛亮に知らせるのであった。

 果たして結果は兵法の裏をかいたつもりが、そのまま弱点となってしまい、山は囲まれて蜀軍は自滅。戦わずして惨敗。街亭を失い、兵を失い、途方にくれる馬謖は怒る王平に追い立てられる。

 

 

《空城計》

 王平から届いた地形図と山頂に陣を取ったことを知り、正確に事の成り行きを予想した諸葛亮は驚愕する。急いで趙雲にこちらに向かうよう知らせを出す。

 しかし物見から街亭を失ったとの知らせが届き、思った通りの結果になったことに諸葛亮は自分の罪だと責める。そして、司馬懿が西城を攻め取ろうとしていることを伝えられる。「馬謖を大事に用いてはならぬ」という先帝・劉備の遺言を思い出し、それを守らなかったことを諸葛亮は悔いる。

 さらに物見は司馬懿の軍がこちらに向かっていることを告げる。諸葛亮はライバルの神の如き采配に畏敬の念を感じる一方、空の城をどうしたら守りきれるか計略を練る。白羽扇を手に静かに考える様はまさに切れ者といった感じ。

 諸葛亮は老兵たちを呼んで門を開け放ち掃除するように命じる。

「丞相はおかしくなっちまったのか?何で四方の門を開けっぱなしにしちまうのさ?」

 訝しむ老兵たちに諸葛亮は十万の神兵を潜めてあると言う。しかし城の中をいくら見回しても兵士の姿は見えない。

「伏兵がいるってどこに?」

「神さまの兵だっていうから見えないんだよきっと」

 手の中の琴ひとつにすべてをかけて待ち受ける諸葛亮。街亭を攻め取って勢いに乗った魏軍がとうとうやって来る。司馬懿はいざ攻め込もうとするが、城楼でのほほんと本を読んでいる諸葛亮を見て躊躇する。

 このうたのくだりは有名なききどころ。また、間奏が長めで唱はもちろん京胡を弾く琴師に向けても「好!」が飛ぶ。

 

諸葛亮  私はもともと臥龍崗にて気ままに過ごしていた

     陰陽八卦に通じ掌を返すが如く乾坤を定める

     先帝が南陽に下り御自ら三度も招かれる

     漢室の業を鼎の足三分となるのを見通し

     武郷候に封じられ元帥の印をつかさどり

     東西に戦い南北を討伐し広く古今の事柄に精通する

     周の文王は姜尚を招いて周室は大いに振るう

     この漢の諸葛亮 諸先輩方にいかに比べられようか

     何する事もなく 私は城楼で琴の音を大きく響かせる

[琴を弾く]

     はははははは…

     我が面前に欠けるは知音の友

 

 司馬懿の息子たちを始め兵たちは「殺せ!殺せ!」と叫ぶ。さあ、進もう!だがしかし、相手はなんと言ってもあの諸葛孔明、一体どうしたものか…悠々と酒を飲み干す諸葛亮を見て悩む司馬懿。それを一向に気にしないかのように諸葛亮は続けてうたう。

 

諸葛亮  私は今 城楼で様子を見ている

     耳にするのは城外のごった返す音

     色とりどりの旗が翻る それはやはり司馬懿の兵

     私もまた 人を差し向けてすでに知っている

     司馬懿が兵を連れて西に向かっているということを

     第一に馬謖が無謀で能力に欠けたこと

     第二に将軍同士の不和で街亭を失ったこと

     そなたは大いなる幸いにして三城を得た上に

     貪り足らず私の西城も奪おうとする

     この諸葛亮 楼閣にて待つ

     そなたがここにくれば心のうちを明かそうぞ

     西城の街道は掃き清め

     司馬懿の兵を駐屯させる準備は整っている

     この諸葛亮 これといって差し上げるものはないが

     軍をねぎらうための羹とうまい酒を早々に準備しておいた

     すでにここまで来たのなら城の中に進むべきであろうに

     なにゆえ疑い 進退極まるとはどうしたことか?

     左右 琴童はふたり 伏兵もいなければ武器もない

     くよくよとみだりに考えることはない

     さあさあさあ 上にきて私の弾く琴をきいてくれ

門には老兵 童子が侍り 琴を奏でる諸葛亮 疑心暗鬼の司馬懿

 息子の司馬昭司馬師は進軍を促すものの、この余裕綽々の諸葛亮の様子を見て司馬懿は城に入ろうとするが思いとどまる。老兵たちはあれ帰っちゃうの?とばかりに呼び止めるが、兵は引いて行った。

「魏軍が撤退しました」

と聞くや否や、諸葛亮はさっきの飄々とした装いとは一変して震えだし、額の汗をぬぐうのであった。

 物見から城が空だったと聞いて、司馬懿はしまったとばかりに引き返す。しかし、駆けつけて待ち受けていた趙雲の軍に追い散らされる。やはり伏兵がいたのだと引き返すが、その後物見からやはり城は空だったと聞かされる。

 「ああ!諸葛亮よ、諸葛亮!おぬしの肝のなんと大きいことよ!司馬懿よ、司馬懿!おまえの肝はなんと小さいことか!司馬、兵を用いるに亮に及ばず!」

 司馬懿は再び諸葛亮の計略にはまることを恐れ、兵を引くのであった。

 

 

《斬馬謖

 このくだり、全体が早いリズムでうたいあう。それによってハラハラする緊張感が醸し出され、一気にラストに向かう。

 諸葛亮はまず王平を召し出す。棒で打つこと四十。

 続いて馬謖。死刑覚悟の馬謖は、自分の年老いた母を諸葛亮に託す。

 「我が心中乱れ刀が刺す如し」

とうたう諸葛亮、続いて搾り出すように言う。

馬謖、何故命令を聞かなかったのだ?馬謖よ!」

二人は呼び合いだた泣きあうことしか出来ない。

「斬れ!」

 いったんそう命じたものの、諸葛亮は思わず馬謖を呼び戻す。そして母の面倒はしっかり見ることを約束する。

「斬れ!斬れ!斬れ!」

 深い悲しみの中、趙雲の労をねぎらい、近々あるであろう司馬懿との決戦に備える諸葛亮であった。

 

鑑賞《空城計》

CCTV戯曲 空中劇院20131220《空城計》

素晴らしいキャストです

 尚長栄(司馬懿

 鈕驃(老軍甲)

 鄭岩(老軍乙)

 于魁智(諸葛亮

 王璐(趙雲

鼓師:蘇広忠 琴師:趙建華

唱の「[西皮慢三眼]我本是臥龍崗」から見られますがぜひ最初からどうぞ

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