中国京劇雑記帳

京劇 すごく面白い

京劇演目紹介《状元媒》(楊家将演義)

2023/05/04更新

 

白馬の騎士と深窓のお姫様の

幸せな結婚物語

 

 

あらすじ

 ときは北宋、北方の国境を接する遼と緊迫していたころ。

 宋帝が柴郡主を連れて辺境まで狩りに出た際、遼の将軍に襲われる。

 国境を守る宋の将軍・楊延昭はいち早く駆けつけて宋帝を救った後、さらわれた柴郡主を追う。宋帝は混乱の中、後から来た傅丁奎に救われたと思い込む。

 楊延昭によって救い出された柴郡主は、身に着けていた珍珠衫と共に詩を詠んで贈り、八賢王・趙徳芳を訪ねるよう伝える。

 趙徳芳は状元・呂蒙正と共に詩を通して、珍珠衫を受け取った者を婿とし、状元が媒酌人となって柴郡主の婚儀を整えるようにという先代の遺言を思い起こす。

 趙徳芳と呂蒙正は話をまとめようとするが、宋帝は柴郡主を傅丁奎と結婚させようとする。

 そこで皆一堂に会して呂蒙正が審問する。珍珠衫を証として楊延昭と柴郡主は晴れて結婚することになる。

 

 

ポイント

 特にノドがいい張(君秋)派の代表的演目。

 宋帝の勘違いと柴郡主の幸せのためにあれこれ思案する趙徳芳と呂蒙正のやりとりが面白い。ハッピーエンドのおめでたい芝居。

 

 

解説

 ときは北宋

 国境を接する遼の将軍・巴若里は、宋帝が柴郡主をつれて自分の軍営地の近くまで狩りに来ているという報告を物見から受ける。引き連れている兵はそう多くない。狩りに夢中になって油断している隙を狙って、柴郡主の誘拐を企む。

 次いで定山王・傅龍の息子の傅丁奎が登場。

 宋帝が柴郡主を連れて狩りに出たのを聞いて、美しいと評判の柴郡主を一目見ようと後を追ってきた。

 宋帝と柴郡主が登場。ふたりが狩りを楽しんでいるところ、巴若里の軍が襲ってくる。国境を守っていた楊家の六男・楊延昭がいち早く駆けつけて遼軍を蹴散らし、巴若里に追われている宋帝を救う。援軍が来たのを見て宋帝の無事を托し、楊延昭は連れ去られた柴郡主を救うため巴若里を追撃に出る。

 しかし宋帝は逃げるのに無我夢中で落馬してしまい、安心した矢先に出会った傅丁奎に救われたと勘違いする。そして、もし柴郡主を救い出せたら結婚を許すと告げる。傅丁奎は運がめぐってきたと喜んで柴郡主の後を追う。

 囚われの身の柴郡主のもとに颯爽と現れた楊延昭。見事敵を撃退して救い出す。そして無礼のないよう顔を伏せて、柴郡主の身にかけられていた鎖を引きちぎっていく。

 自分を救ってくれた武勇、礼儀をわきまえた態度、しかもカッコイイ!柴郡主はときめく。

 指に挟んだ翎子をくるくるとまわし、うれしそうに改めて楊延昭を見つめる。その様子が実にかわいい。

「決めたわ!」

心中ある決意をして目を輝かせる柴郡主。

「この珍珠衫(真珠の装飾着)を将軍に贈ります。どうぞお納めになって。のちに陛下からも改めて褒賞をいただけるでしょう」

 そう言って自分の纏っていた珍珠衫を楊延昭に渡す。

「八賢王をお尋ねになって。いまからわたくしが言うことをよくお聞きください」

 

"老王言在先 賢王作周全 若要事成就 須得一状元”
珍珠衫を贈る柴郡主

 

 楊延昭は珍珠衫を受け取り、詩をしっかりと諳んじる。

 そこへ援軍が来たのを見て、楊延昭は柴郡主に宮殿に戻るように言い敵軍を追撃する。

 その場を去る楊延昭をいつまでも見送っている柴郡主。傅丁奎がやって来て柴郡主を宮殿まで送る。

 

 八賢王・趙徳芳が登場。

 狩りに出た宋帝と柴郡主が遼軍に襲われたと聞き、慌てて楊家に命令を下そうとしていたところに楊延昭が現れる。

 楊延昭からすでに遼軍を撃退してふたりとも無事であることを聞いて安心する。楊延昭は柴郡主に言われた通り、趙徳芳に贈られた詩のことを伝える。

 「うむ…成就するには状元を得るべし、か…内侍、この度の状元・呂蒙正を呼んで参れ」

 

 今年受かった状元・呂蒙正が登場。赤い官衣を纏い、烏沙帽にはその年の科挙でトップに受かった者だけがつける金花がついている。

 詩に詠まれている賢王とは趙徳芳、状元は呂蒙正。当事者のふたり顔をつき合わせて考える。

「老王のお言葉とは?状元に受かってホヤホヤのわたくしが知る由もございません」

 呂蒙正は首をひねる。

 「周全となす…私が万全に整えるようなこととは…」

 趙徳芳も首をひねる。

「殿下だからこそご存知でご用意できること…ふむ。柴郡主さまはすでにご結婚されているのですか?」

「いや、まだだが」

「まだでございますか。ではひょっとして…」

「あ!」

いきなり笑い出し、先代の遺言を思い出した趙徳芳。

「それはなんと?」

「その意味するところが『天子が取り決め、状元を仲人とし、宝衫をもって結納とする』…ま、そういうことだな」

「状元を媒酌人として?」

「そうだ。つまりそなたのことだな」

「ことは重大でございます。陛下のご命令もなしに勝手なことはできませぬ」

「この話が信じられぬと申すのか?」

「いえいえ、そういうことではございません。陛下が掌中の珠の如く愛でておられる柴郡主さまのご婚儀ともなれば重大事。陛下のご命令なしに媒酌人など恐れ多くて務められましょうか」

「まったく肝の小さい。ははははは。呂蒙正、そなたのなんと可笑しいことか。馬鹿で小心者を装うのはやめよ」

「そうではございません。郡主さまの一生の大事となれば軽軽しくはできませぬ」

「天が崩れ落ちてこようとすべて私が責任を負うぞ。おぬしは釣り糸を垂れてのんびり座っていた姜子牙の如くゆったりと構えておればいい。延昭よ、府へ戻って待たれよ。陛下の聖旨をいただけるようさっそく奏上してくるから」

「はい」

 趙徳芳は呂蒙正とともに宋帝のもとへ柴郡主の婚儀を整えようと奏上しに行くことにする。

 

 趙徳芳は宋帝がいる宮殿を訪れて安否を気遣う。宋帝はある若い将軍に柴郡主共々危機を救われたと答える。

「陛下と郡主の窮地を救ったその将軍ですが…『状元媒』のこと、陛下は覚えておられますか?」

「ああ、しっかりとな。明日にでも詔を降し、状元を媒酌人として郡主の婚儀を進めようと思うがどうか?」

さっそく呂蒙正が呼ばれて話がトントン拍子に進む。

ところが

「ではさっそく天波府へ喜びの知らせを持って参ります」

事に取り掛かろうと席を立つ呂蒙正の言葉になぜか驚く宋帝。

「まてまて!どこに行くと言うのだ?」

「天波府ですが」

天波府とは楊家の住まい。

「天波府に行ってどうするのだ?」

「陛下の詔に従いまして仲人をいたしますが…?」

たった今相談がまとまったところではないですか、呂蒙正は不思議な顔をする。

「郡主は自分を救った将軍と婚儀を執り行うのだぞ。楊家と何の関係があるのだ?」

傍らで聞いている趙徳芳もわけがわからない。

「陛下、その将軍とは天波府の楊延昭ではないですか」

「はい。楊延昭こそ、その将軍でございますよ」

「なに?!そなたたち、何を勘違いしておるのだ?」

皆、狐に顔を抓まれたよう。どうもおかしい。

「敢えてお聞きしますが陛下のおしゃる将軍とは…一体どこの家の者ですか?」

訊ねる趙徳芳に宋帝、自信たっぷりに答える。

「開国の功臣、定山王・傅龍の子、名は傅丁奎!」

「はあ?」

趙徳芳、呂蒙正ともにびっくり。

「何をおっしゃるのですか!明々白々、楊家の将軍・楊延昭のことですよ!」

 二人そろって間違いだ、間違いだと言うのを終いには宋帝は怒り出し、宮殿から二人を追い出す。

 

「まったく!困ったもんだ。郡主は楊延昭、陛下は傅丁奎がいいという。状元どの、そなたはいったいどちらがいいと思うかね?」

「もちろん楊延昭が良いに決まっております。でも陛下がああおっしゃっておられては、臣下であるわたくしとしては手も足も出ませんなあ」

「なんだと?」

「いやまったく手も足も出ません」

 自分はこんなに困っているのに、狼狽している様子をみせずに涼しい顔の呂蒙正に趙徳芳は口を尖らせる。

「ふん!いい加減すかした態度はやめよ!」

「すかしてますかな?」

相変わらず飄々としている呂蒙正。

「こういうときにどうしたらいいかいい考えも浮かばずして『状元』とはまったく片腹痛いぞ。さっさと定山府へ行って結婚をぶち壊してまいれ!それでおまえが追放になったほうがまだマシだ。さっさと行け!」

プンッと膨れっ面の趙徳芳を見て「あははははは」と笑い出す呂蒙正。

「何が可笑しいのだ」

「わたくしが馬鹿な小心者を装う必要もない、天が崩れ落ちてこようとあなたさまが責任を引き受けてくださるとおっしゃいましたかな?」

「うむ。わたしが責任を負うぞ」

「わたくしに釣り糸を垂れて座っていた姜子牙のごとくゆったりと構えておれとおっしゃいましたね」

「そうだ」

「それではもうこのまま手をこまねいている必要もございませんな」

「ええい!くどくどと言ってないで何かいい妙案はないのか。郡主と楊延昭が結婚できるように」

「あのォー殿下、わたくしの拙い考えでございますが…」

「何だね?」

「殿下が郡主さまに直接おたずねになってはっきりさせられればよろしいかと…」

「何を聞くのだ?」

「どうぞもっとお耳を近くに…」

 呂蒙正に顔を近づけ、耳をすませる趙徳芳。

「はははははは」

さっきとは打って変わって満足そうに笑い出す。

趙徳芳   話を聞いて安心した

      やはりそなたは状元になるだけの才がある

      状元公 私とともに郡主のもとに参れ

「ええ?!郡主さまのいらっしゃる宮殿へ?滅相もない。わたくしめが入れましょうか」

恐れをなす(?)呂蒙正。

「構わん。私が責任を持つと申したであろう」

「またまた殿下に責任を負わせるとなるのでしたら、わたくし、ますます随うわけには参りません」

「いいから参れ」

 呂蒙正は趙徳芳に手を引っ張られて行く。

 

 さて、柴郡主のいる宮殿。

 まずは大勢の宮女たち、そして柴郡主が登場。

 頭には「鳳冠」、襟には「雲肩」、自分の居住する宮殿なので便服である「宮装」を纏っている。

 

柴郡主   あの日 戦いのなか延昭さまとお会いして

      こころが千々に乱れて落ち着かない

      潼台で敵に捕まり命も危うく

      戦い乱れるなかあのお方に救われて

      わたくしは無事に戻ってくることができたけれど

      いろいろな思いが纏わりついて悩ましい

      あの方とわたくしってどうなのかしら 

      民の閨房は花のように美しい春を楽しみ

      帝王の住まいは宮殿の奥深く 水の如く流れる年月を恨む

      幸いにも珍珠衫は意にかない

      宋の天子が主となり婚姻を成り立たす

      皆からの反対がありませんように

      楊延昭さまのお心が石の如き堅く誠実でありますように

      状元どのが月下老人として糸を手繰り寄せてくれますように

      お兄様がうまく事を運んでくださいますように

      戦いの狼煙があがることなく

      異郷の民に侵略されることないよう

      早く美しい春が訪れますように

      叔父様の治める美しいこの国が平和になりますように

      世の恋人たちがすべて結ばれますように

      これからも国も民も安泰でありますように

 

 趙徳芳が柴郡主を訪ねてきて、柴郡主は宮女たちを下がらせる。

「お兄様、今日はどういったご用向きですの?」

「いやあ、めでたいめでたい!」

「何のことですか?」

「しらばくれるのはやめなさい」

「なんのことです?お話になっていただかないとわかりませんわ」

そっけなく言う柴郡主に趙徳芳もちょっとすねる。

「そなたのことをわが身のことのように思ってどんなに気に掛けているかも知らないで…」

「あら。わたくし、お兄様にはいつも感謝していますのよ」

「わかった、わかったよ」

前置きはここまで、さっそく本題に入る。

「話というのはね、このたびの潼台のことなんだが、それは誰の功績かね?」

「それを聞いてどうなさるの?」

「人からの頼まれ事だよ。大事なことなんだ」

「お兄様の頼まれ事とこの度のこととどう関係がありますの?」

「とても重要なんだよ。どうしても確かめねば」

「何を?」

「一体誰なのか、ということさ」

「それは…」

「それは?」

その名を口にするのも恥ずかしい柴郡主。

「それがいったいどう大事というのです?」

なかなか言い出せない。

「大事なんだよ。誰かね?」

「瓦橋三関の楊…」

言いかけたところを思わず口に手を当てる。

「楊?」

「楊…楊延昭です」

消え入るような声で答える。その名を口にした途端、袖で顔を少し隠して思わず笑みがこぼれる。

「ふむ。それでそなたを救ったのは誰だね?」

柴郡主は趙徳芳の尋問(?)にしつこさを感じてか、ご機嫌ナナメになる。

「もう!わたくしはとっくにわかってましたわ。お兄様がわざわざいらっしゃるということは何かよくないことがあったからでしょう。問題が起こらなければおいでになるはずございませんもの。まったくお兄様らしくありませんわ!」

「妹よ。どうしてもはっきりさせなければならぬのだよ。いったい誰かね?」

「ああ!もう!」

「楊延昭かい?」

「ご存知ならどうしてお訊ねになるの?」

「他には?」

「おりませんわ」

「そんなはずないだろう」

「どういうことですの?」

「陛下がおっしゃったのだ。傅丁奎、とね」

「ああ、そういえば陛下から申しつかってわたくしを迎えに参りましたわ」

「陛下はその傅丁奎とそなたを一緒にしようとしているのだよ!まったく!わたしも頭に来るよ!」

「え!?」

愕然とする柴郡主。

ショックのあまりに一言。

「趙の姓はいいひとなんていないわ」

「え??わたしまで責めるのかい?」

「誠実ぶるのはおよしになって。はやく出ていってください!」

こちらはこちらで気を砕いているというのに八つ当たりされたしまった趙徳芳。

「ふう。まったくいい迷惑だよ。わたしも状元も」

「状元?」

「ああ、状元の呂蒙正だよ」

呂蒙正!」

「彼は頭が切れるんだ。彼を呼んでここはひとつ相談しよう」

それを聞いてぱっと顔が明るくなる柴郡主。

「さすがお兄様。頼りになりますわ」

機嫌が戻った妹を見て趙徳芳、

「ちょっと!ちょっとこっちに来なさい!」

と郡主を呼び止めてすかさず詰問。

「趙の姓にいいひとはいないのかい?」

兄のいかめしい顔にあわてて答える。

「お兄様のことではありませんわ」

「わたしではない?では一体誰だね?」

「それは…陛下です!」

「あははははは」

趙徳芳、破顔一笑

「陛下を罵るとは大胆だな」

「少し高ぶっただけです。陛下には仰らないでくださいね」

趙徳芳はさらに愉快そうに笑って、さっそく呂蒙正を呼び入れる。

 

 真中に柴郡主、舞台向かって右に趙徳芳、左に呂蒙正が座る。柴郡主がそのときの状況を呂蒙正に尋ねられるまま答えてうたうここもききどころ。

 最初は御簾を垂れて呂蒙正に接見していた柴郡主だが、勘違いしている宋帝の言葉を伝え聞いて居ても立っても居られなくなり、御簾を上げて直接話を聞くことにする。

 楊延昭に詩と珍珠衫を贈ったことを話す柴郡主。我が意を得たり、賢王、状元のふたりもニッコリ。

「閣下、いかがですかな?」

「いやさすが!ははははは」

そこに「陛下がおいでです」という声。

「やばいやばい」慌てる趙徳芳。

「いかがされたのですか?」

「陛下はわたしをご覧になればきっとお怒りになる。さ、隠れるのだ」

「わたくしは媒酌人を務める状元です。こそこそ隠れる必要がどこにありましょうか」

「はやくしろ!」

趙徳芳は鷹揚に答える呂蒙正の手を引っ張っていく。

 

 宋帝は柴郡主に結婚話をするが、相変わらず自分たちを救ったのは傅丁奎、結婚相手はやはり傅丁奎と言って譲らない。柴郡主は毅然とした態度で臨む。人生の一大事を誤ることのないよう、宮殿で真偽をはっきりさせることに宋帝も同意する。

 

 宋帝が去ってすぐに趙徳芳と呂蒙正が現れる。

「お兄様、お聞きになったでしょう。何かよい考えはございませんか?」

「ええっと、皆を呼んで真偽を確かめて、それから…どうするのだ?」

話を呂蒙正に振る趙徳芳。

「ありゃまあ。わたくし、あまりでしゃばりたくないのですが」

「何がでしゃばりたくないだよ。そもそもそなたが思いついたことではないか」

「まったく。そう仰られてはますます口をはさめませんな」

漫才をしている場合ではない。

「状元どの」

柴郡主が訊ねる。

「はい」

「あなたのお考えとは?仰って」

「はい。両家がそろったとき、珍珠衫のことを奏上なさればよろしいかと」

これで作戦は決まり。趙徳芳はホッとしている柴郡主を再び呼び止める。

「この兄のお手並みはいかがかね?よくよく感謝してもらいたいものだが」

「お兄様、わたくし…」

にっこり笑いながら

「感謝いたしませんわ!」

と言いながらも感謝の礼をとって去る柴郡主。その嬉しそうな様子を見て笑い出す趙徳芳。

「まだ一件落着ではありません。感謝をお求めになるとはとんだご冗談を」

飄々と言う呂蒙正。

「妹として大切に思っているんだ。天波府に行って楊延昭にも伝えて呼ぶように」

「かしこまりました!」

「楊延昭には珍珠衫がある。きっとうまくいくぞ!」

 

 金殿に一堂が会する。

 真中には宋帝、舞台向かって左に柴郡主、礼服「紅蠎」を身に纏っている。その隣に呂蒙正。そして楊継業、楊延昭親子。右手には趙徳芳、傅龍と傅丁奎親子と勢ぞろい。

 宋帝に言われ、改めて楊延昭と傅丁奎の二人を見る柴郡主。楊延昭の方を見てにっこりうなずく。

「潼台の窮地を救った将軍はこのものであろう」

と傅丁奎を示す宋帝。

「いいえ違います。あの方です」

と楊延昭を示す柴郡主。

「見間違えたのではないか?」

「陛下、わたくしを救ってくれたのは楊延昭、わたくしが宮中で申しあげていたのは楊延昭、今ここで確かめましたのも楊延昭でございます!」

 それならばなぜ自分は楊延昭を見てないのか、宋帝の疑問に楊延昭は答える。

「恐れながら陛下。戦い乱れる中、落馬された陛下を本来ならわたくしは馬に乗せて差し上げなければならないところでしたが、近衛兵がやってきたのを見てわたくしはさらわれた郡主さまを救いに行きました。それで陛下はわたくしをみかけていらっしゃらないのでございます」

「ううむ。ならば敵を退いたのはそなた?」

「はい」

「いや俺だ!」

気色ばむ傅丁奎。

「まあまあ」

と止めに入った呂蒙正は傅丁奎に今回の事の顛末を報告させるように提案する。

「敵が使っていた武器は?」

と楊延昭が聞くと傅丁奎は得意げに

「槍だ!」

と答えたはいいが、

「何?刀だったはずではないか」

宋帝からそれを言われて傅丁奎はあわてて言い直す。

「え?!ああ!ええっと刀からあとで槍に持ち替えたのです!」

どうもあやしい。今度は楊延昭に報告をさせる。

「敵の名は『巴若里』!」

楊延昭が言うと傅丁奎はさっきのお返しとばかりに

「いや違うぞ!『若里巴』だ!」

と言ったのはいいが

「ん?『巴若里』ではないか」

またまた宋帝から指摘を受ける。

 それにひるまず傅丁奎は次に柴郡主を救った経緯を話しはじめる。武勇の誉れ高き柴郡主が善戦していたところへ自分が助太刀に入った…それを聞いていた柴郡主は一喝。

「おだまりなさい!」

 傅丁奎が来たのはすべてが終わってから。功に対し褒賞をもらうならともかく皇族を望むなど何を血迷うか、と厳しくうたう柴郡主。

 いややっぱりうちの子だ、うちの子だ、と終いには両家の親同士が言い合いになる。収拾がつかなくて困った宋帝は呂蒙正に采配を求める。

 

柴郡主   どうぞ陛下 先王の遺された詩において

      この縁談をお決めになられてください

 

「陛下、郡主は救ってくれた将軍へすでにあの珍珠衫を給わっております。どうかよきご判断を」

「そうだったか!呂愛卿」

「はいここに」

「わたしに代わって詔を伝えよ。『柴郡主の珍珠衫を賜ったものを柴郡主の夫とする!』と」

「かしこまりました!これでようやく媒酌人として面目がたちますな。両家の者たちよ聞け!陛下の詔である。珍珠衫を今、手にしているものが婿となる。媒酌人は人ではなく珍珠衫を認めるものとする!」

「珍珠衫は今、わが身に身に付けております!ご覧下さい!」

 跪いて懐を開いて見せる楊延昭。その胸元には、まごうことなき柴郡主の珍珠衫が。悔しがる傅龍と傅丁奎親子の一方で、皆、満面の笑みで幕が降りる。

 

 

データ

 またの名を《銅台陣》。1960年に葉徳霖が改編して張君秋、馬連良、譚富英が公演。

 柴郡主 旦

 楊延昭 武生

 趙徳芳 小生

 呂蒙正 老生

 趙光義(宋帝) 老生

 

 

鑑賞

京劇《状元媒》後半

王蓉蓉の演じる柴郡主の登場シーンから

CCTV空中劇院 20190215 CCTV戯曲

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