中国京劇雑記帳

京劇 すごく面白い

京劇の登場人物と衣装 & 臉譜図鑑 項羽

2023/12/21更新

京劇《覇王別姫》の項羽

 項羽の登場する芝居はこちら

 

 項羽は架子花臉(仕草や台詞が中心の浄)または臉譜を施した武生が演じます。

 時を経て場所を違えて改良、改編されていくのが常、臉譜や衣装は演じられた時代や劇団、役者によっての違いはあります。

 項羽の臉譜の色は黒が基調です。

 

黒色の臉譜といえばこのお方

 

 額の中心から鼻すじにかけて徐々に狭まる逆三角形、それに繋がる細くなった線が両小鼻からほうれい線に沿って広がる黒い色。

 鼻は白く、白い左右の額には「壽」の字を変形させた眉が描かれています。

 跳ね上がる魚が向かい合って「八」の字のようにみえる黒い目元まわり。

 鼻梁の両目頭の間にも皺のように「壽」の吉祥文が入っています。

 長寿の「壽」、末広がりの「八」、「魚」 は「余」と同音[ yu ]とおめでたい意味合いが満載なのとは裏腹にそこはかとないもの悲しさを感じさせる「哭臉」(泣き顔)です。項羽の悲劇を彷彿とさせます。

 眉、目、鼻を誇張させた「三塊瓦(三塊窩)臉」の発展形「十字門臉」で「黒十字門鋼叉臉」と呼ばれます。「鋼叉」とは「さすまた」のこと。

 

 中国映画「さらば、わが愛 覇王別姫」をきっかけに京劇をご存じなったり興味を持たれた方も多いと思います。髯をつけておらず見やすいのでこちらを引用させていただきます。

 向かって左側の段小楼(チャン・フォンイー:張豊毅)に施されているのが項羽の臉譜。上記の特徴が見て取れると思います。

 

映画についてはこちらをどうぞ

 

 次に口元を覆うヒゲですが真っ黒つやつやさらさら、隙間なくびっしりとお腹をすっぽり覆うほど長い「黒満」。

 

紫の「満髯」は孫権がつけてます こちら12分00秒頃から登場

 

 臉譜と共に衣装は黒色が基調です。

 西楚覇王・項羽が纏う鎧、いわゆる「覇王靠」。

 黒色の生地に金色の刺繍が施されており、腹部の下を覆う部分(靠肚)には黄色の房飾りがびっしりとついています。

 項羽が当たり役のひとつだった金少山(1889-1948)が北京公演の際、上演間近になって衣装が短く採寸を誤ったことに気がついた担当者が見栄えを良くするため、急遽舞台道具の装飾をつけたことをきっかけに改良されました。

 

 

 肩部分などにある虎を象った装飾は武人としての豪放磊落な性格を表しています。

 背中に三角形の旗を四本刺している臨戦態勢の「硬靠」、戦場にいないときは背中に旗はなく「軟靠」と区別があります。

 

血気盛んな武将の姿はこちら

 

 臨戦時に頂く兜にあたる「夫子盔」。

 劉邦と対峙する《九里山》の場面で八角形に広がる形状の「八面威(八纓盔、覇盔)をつけています。

 

こちらでご覧になれます

 戯曲映画版は33分20秒頃から 舞台版は最初の登場から

 

 戦場以外で被る項羽の黒色系の「夫子巾」は黒地に豪華な金色の刺繍が施された布が後頭部から背部を覆っています。頭頂部左右についているビーズをつないだ渦のような形の飾りがわたくし個人としてはチャームポイント。

 

緑色だと関羽がつけます 紅生戯はこちら

 

 靴は「厚底鞋」。腰には「宝剣」。虞姫が項羽の不意を突いて抜き取り自刎してしまう宝剣です。戦場では「大槍」を振るいます。

 馬を操り、馬そのものを表す「馬鞭」。房が黒色なのは馬の色を表しています。馬鞭に彩球の布飾りがついているのは、項羽の愛馬「騅(すい)」の駿馬たる非凡さを表しています。

 

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