2023/05/28更新
瑞祥の龍と鳳凰 千里をこえて結ばれる縁
あらすじ
三国時代。
呉の孫権は劉備から荊州の地を奪回するため、妹の孫尚香との縁談を持ちかけて暗殺を企む。
劉備の軍師・諸葛亮はそれを見抜いてその時々の対策を書き記し、錦の袋に入れて将軍・趙雲に授けて同行させる。
呉に到り袋の中の計に従って、劉備は呉の元老・喬玄を訊ねる。喬玄は孫権の母・呉国太のもとへ祝いを述べに行く。そのとき初めて縁談話を聞いた呉国太は孫権を叱責し、劉備と対面する。劉備を気に入った呉国太は、孫尚香との結婚を快諾する。
呉に留まり平穏で豪華な暮らしを送る劉備を案じた趙雲は袋を開けて、その指示通りに曹操が挙兵したと劉備に告げる。驚いた劉備は急いで荊州に戻る決心する。
周瑜は魯肅が止めるのもきかず劉備を追ってくるが、孫尚香に阻まれる。劉備を迎えに来た諸葛亮と張飛によって周瑜は兵を引かざるを得なくなる。
ポイント
上演時間も長く登場人物が多いため、行当(役柄)が多彩でそれぞれの良さを一挙に見ることができる。
年末年始や祝日、記念公演などで上演されることが多い。
有名なききどころとして《甘露寺》で喬玄がうたう[西皮原板]から[流水]、孫尚香の登場する[西皮慢板]。
解説
第一場 過江
不安な劉備はさっそく諸葛亮に持たされた錦の袋を取り出す。そこには「須らく相府に到り喬玄に謁すべし」とある。
呉の元老・喬玄には二人の娘がおり、姉の大喬は孫権の兄・孫策、妹の小喬は功臣の周瑜にそれぞれ嫁いでる。この姉妹の美しさは有名で、赤壁の戦いのきっかけのひとつとして語られている。
第二場 謁喬
喬玄は提灯でめでたく飾られている街並みを見て何事かと家人の喬福に尋ねると、劉孫両家の結婚を祝うものだという。
そこへ劉備が挨拶に訪れる。劉備が渡す贈り物の目録を喬玄は断っているのに喬福がちゃっかり受け取る。
「わしが断っているのになんでお前が受け取るんじゃ」
と咎めるやりとりが可笑しい。
第三場 斥権
喬玄は呉国太に祝いを述べに行く。呉国太にとっては青天の霹靂、孫権を呼んで問いただす。妹を計略に使うとはなんとも恥ずべきと呉国太は怒り心頭。そして、劉備を殺そうとする孫権に喬玄は諭す。
ここはききどころのひとつ。リズムが早くなり、滑らかに劉備やその臣下たちの功績を流れるようにうたいあげる。
言い争う孫権と喬玄をよそに、呉国太は甘露寺で劉備に会うことにする。
唱はこちらからどうぞ
第四場 定計
孫権は呂範を呼んで、甘露寺に伏兵を置いて劉備を殺すように指示する。
第五場 尋計
喬玄は劉備に危険が及ぶかもしれないことを知らせるため喬福を遣わす。
第六場 送薬
忠告を受けた劉備は喬福に褒賞を与える。調子に乗った喬福は褒賞目当てに趙雲にも忠告するが、しつこいといって追い払われる滑稽な場面。
第七場 相婿
翌日、甘露寺にて一堂に会することになった。
劉備は呉国太に自己紹介。自分の生まれから義兄弟の関羽、張飛、同行している趙雲、軍師の諸葛亮と次々とその武勇伝をうたう。その度に褒め称える喬玄、それに難癖をつける孫権、その態度を咎める呉国太。劉備のうたもききどころだが、それを受けての三人の流れも面白い。
その場を一旦下がった孫権。武装させた部下の賈華と乗り込もうとするが、母の怒りを思うとなかなか踏み込めず。
多くの剣先が動いているのが劉備を護衛する趙雲の視界にふと入り、すかさず劉備に告げる。驚いた劉備は呉国太に助けを求める。
呉国太は孫権、呂範、賈華を次々と召し出して問いただす。皆知らぬ存ぜぬで最後に責めにあった賈華を呉国太は斬ろうとするが、劉備がとりあってそれをやめさせる。劉備を気に入った呉国太は、吉日を選んで孫尚香との華燭の典をあげることを許す。
第八場 洞房
多くの宮女を引き連れて、孫尚香が登場。ここでうたわれるうたも有名なききどころ。
嬉々として花嫁の部屋に入ろうとする劉備の眼に映ったのは、飾られた武器の数々。武芸を好む孫尚香の趣向だが、命を狙われている劉備にしたら物騒なことこの上ない。趙雲に一緒に来てくれとせがむ始末。
武器を取り払ってもらい、部屋に入る劉備。劉備と孫尚香はお互いを認めあって喜ぶのであった。
鑑賞
このくだりでは珍しい程派(程硯秋)の唱の響きをどうぞ。
10分40秒からは朱強がうたう《甘露寺》が聴けます。
京劇《龍鳳呈祥》《珠帘寨》《甘露寺》《柳萌記》《坐寨盗馬》選段【名段欣賞20151230】
第九場 聴琴
諸葛亮が優雅に琴を弾いているところに訪ねてきてイライラをぶつける。しかし諸葛亮から劉備はもうすぐ帰ってくると聞いて、信じて待つことにする。
第十場 闖宮
嘘から出た誠、縁談が成立した今となっては仕方が無い。周瑜は劉備に贅沢をさせて荊州のことを忘れさせようとする。その思惑通り、劉備は今まで送ってきた戦乱の日々とは打って変わった平穏で贅沢な暮らしを愉しむ。
「そなた、まだ帰ってなかったのか?」
と言われる始末。平和ボケしている主君をどうしたらよいものか…困ったときの諸葛亮、錦の袋を開けてみる。
「主君が戻る気が失せている場合は…」
さすがしっかり見抜いている諸葛亮、
とある。
宿敵・曹操の名を持ち出すと効果てきめん。劉備は直ちに荊州に戻る決意をする。主君の様子を見て嬉しくて声高らかに笑う趙雲。
第十一場 別宮
孫尚香は呉国太に墓参りに行くと告げるも、別れの寂しさから泣いてしまい本当のことを打ち明ける。呉国太は娘を思い、行く手を阻むものがあれば見せるようにと宝剣を与える。
第十二場 闖帳
周瑜登場。
ピンクの鎧に冠には長い一対の孔雀の羽。その羽を指に挟んで優雅に動かす。
劉備が去ったと聞いて周瑜は諸将に追う命令を下すが、魯粛に止めに入られる。今となっては劉備は身内。罪人として捕えて殺すことはできないと諭す。さらに諸葛亮の出方を懸念して、周瑜が諸葛亮を殺そうとして逃げられたことを持ち出す。
「赤壁の戦いをお忘れですか?」
魯粛の言葉に怒りまくる周瑜。頭を震わせ、それと共に孔雀の羽が波打つように揺れる。
「そなたはあまりにもバカ正直なのだ!」
「正直だから本当の話をしているのです」
魯粛は酒に酔っているから下がるようにと告げて周瑜は自ら劉備を追撃に出る。
第十三場 潜逃
周瑜に命じられた諸将は劉備を追いかけて行く。しかし、ここぞというところで孫尚香が呉国太から賜った宝剣をかざすために手出しができない。
追ってきた周瑜を孫尚香は叱責。趙雲に宝剣を託して劉備と共に先を急ぐのであった。
第十四場 接駕
漁師に身をやつした張飛が登場。兵士たちは手に月華旗という旗を持っている。この時の張飛の動きと台詞はみどころ。
そして諸葛亮が船に乗って迎えにくる。
乗船する際、嬉々として劉備が真っ先に乗ろうとすると眉を顰める孫尚香。さらに引き返そうとする素振りまで見せる。劉備はペコペコひたすら頭を下げて先を譲ってエスコートするところは笑える。
ふたりが無事乗船したのち、再会を喜び合う。劉備から嫂となった孫尚香を紹介されてモノマネする張飛が実にお茶目。
諸葛亮は張飛に迎撃を命じて、兵たちに周瑜に向けて声をあげるよう指示する。「周瑜の計略は見事失敗、夫人を取られて兵をも失う」と。
データ
《甘露寺》《美人計》《回荊州》の構成で上演されることが多い。
劉備 老生
趙雲 武生
喬玄 老生
呉国太 老旦
孫権 浄
孫尚香 旦
周瑜 小生
魯粛 老生
張飛 浄
諸葛亮 老生
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