2024/04/27更新
皇帝の寵愛を一身に受ける楊貴妃の魅力
あらすじ
唐代、玄宗の寵妃・楊玉環はある日、玄宗と百花亭で花見の約束をしていたが、玄宗は西宮の梅妃のところへ行ってしまった。
楊貴妃はその憂さを晴らさんと百花亭でひとり酒を飲み、泥酔して宮殿にもどる。
ポイント
唱と優雅な仕草を堪能できる芝居。
解説
楊貴妃付きの太監である高力士と裴力士が登場。高力士は丑、裴力士は小生が演じている。
今日は百花亭で酒宴を開く。準備が整ったことを知らせると多くの宮女を従えて、楊貴妃が華々しく登場。
頭に「鳳冠」(鳳凰かたどった冠)を頂き、宮廷の正式な礼服である「紅蠎」の女性ものの衣装を身に着けている。
本来皇帝が龍、后妃が鳳凰の柄だが、その寵愛の深さを物語るように龍の柄が刺繍されている。腰には「玉帯」、襟元には「雲肩」、金色に光る扇を手に実にあでやかに登場する。
優雅なしぐさで、ここでうわれる[四平調]は有名。
楊玉環 〈唱〉
海に浮かぶ島々に 月が昇る
玉兎たる月が東の空に昇っていく
月は島々から遠ざかり 澄み渡る天と地が映える
白く冴えた月が空高く輝いている
嫦娥が月の宮殿を離れるのに似て
わたくしこそまるで月の宮殿を離れる嫦娥のよう
鑑賞(1)
このくだりをご覧いただけます
中国語と英語の字幕が入っています
自身を月に住む仙女の嫦娥に喩えて百花亭に向かう楊貴妃。橋を渡り、池の魚、空を飛ぶ雁、目にするものすべて楽しく感じる。
百花亭についたところで突然、高力士から玄宗がすっぽかしてしかも別の妃のもとに行ってしまったと聞かされる。
なんですって?!酒宴の準備もすっかり整っているのに…楊貴妃はひとり憂さ晴らしに酒を飲むことにする。
最初に裴力士が運んで来た「太平酒」、次に宮女たちが運んで来た「鳳龍酒」、それらを次々と飲み干す。
そして、高力士が運んで来た酒、その名も「通宵酒」。
「まあ!夜通しですって?」
それを飲み干してうたう。
「人生は春の夢の如し、しばし心ゆくまで幾杯か重ねん…」
酔った楊貴妃は礼服から普段着に着替えることにする。足元が心もとない「酔歩」と呼ばれる技の歩みで宮女たちに支えられていく。
この間、高力士と裴力士は牡丹の鉢植えを運んで花見の準備をする。実際にはない重い鉢を二人で運んでいるように演技をしながら、こんなものでいいかな、いい香りだねえと世間話を始める。後宮には美女三千、小さいときから入って頭が白くなるまで陛下の顔を見ることもないものもいるなか、寵愛を受けることは大変だと高力士は言う。おっとこんなことしゃべっている場合じゃない、と酒の準備に二人は下がる。
楊貴妃再び登場。
「宮装」といういでたちで、朝廷に参内するような礼服とは違い、便服である。
相変わらずの「酔歩」。周りに咲く花々の美しさを見て、花びらをちぎり、香りをかいで愉しむ。それは仕草で表現される。舞台左右での演技の後、真中で派手にくるくる回転、ねじが巻かれるように足腰を曲げて倒れ込む「臥魚」の動き。このとき衣装が舞って美しい。
裴力士が再び酒を持ってきて勧める。飲みっぷりが見事な楊貴妃。しゃがんで両手を腰に当て、捧げる杯を口にくわえて身体をゆっくり回転させる「下腰」という芸当がみどころ。
さらに高力士が酒を持ってくるが熱い。不機嫌な表情で高力士に抗議する。高力士はふうふう冷まして再び勧める。ここでまた「下腰」。そして宮女たちが持ってきた酒を飲み「下腰」。
楊貴妃のあまりの酔いようにたしなめようと高力士は玄宗が来たと嘘をつく。慌てて出迎えようとする楊貴妃を宮女たちが支える。楊貴妃を真中に左右を支える宮女たちが横一列に並ぶ。
「出迎えが遅れてしまいました。申し訳ございません」という楊貴妃だが「今のは嘘でございます」と高力士が答えるのを聞くや否や気が抜けて座り込む。それにつられて宮女たちも皆その場で座り込む。
楊貴妃は立ち上がって宮女たちを振り払うと、更にお酒を持ってきて、皇帝を呼んできてと裴力士、高力士に絡む。しまいには高力士の冠を取り上げて、自分の鳳冠の上に乗せておどけながら歩く。
「返してください」と慌てる高力士。楊貴妃は冠を手にして高力士は頭を低くして「それっ」とばかりにお互いに向かっていくもののうまく収まらない。それを一回二回と繰り返して高力士はやっと返してもらう。
高力士に宮殿に戻るようにうながされた楊貴妃は、フラフラするのを宮女たちに支えられて戻っていくのであった。
鑑賞(2)
史依弘(史敏)が演じる楊貴妃
データ
別名《百花亭》。
四大徽班のひとつである四喜班の呉鴻喜の創作。路三宝、梅蘭芳、筱翠花等異なる演技のなか、梅蘭芳が独創的で、今に到っては主流になっている。
[万年歓][傍粧台][柳揺金]などたくさんの曲牌が使われるなか、唱あり、踊りあり、美しい動きに衣装も華やかな梅蘭芳の代表作。
行当としては「青衣」よりも動きが多く、かといって「花旦」よりはあでやかに動きうたも多いので「花衫」と呼ばれる。