2023/01/01更新
龍は皇帝 鳳は后妃の象徴
空を泳ぐ龍が鳳と戯れる
あらすじ
明代、身をやつして梅龍鎮に訪れる正徳帝。家を空けている兄に代わって宿を仕切る李鳳姐を見初める。自分をからかう皇帝に困る李鳳姐。正徳帝は身分を明かして李鳳姐を宮妃として封じる。
ポイント
別名《梅龍鎮》。
ふと立ち寄った宿にいるかわいい娘をからかう皇帝。怒ったり困ったりする李鳳姐と飄々とした皇帝のやりとりが面白い台詞と仕草が中心の芝居。
正徳帝 老生
李鳳姐 旦
解説
民情視察と心がけのよい皇帝、お酒を飲もうと店主を呼ぶと出てきたのはかわいい娘。気に入った皇帝に起きるいたずら心。
肩に掛けていた長い布を李鳳姐が落としたのを見た皇帝が咳払い。気がついた李鳳姐は布を拾って行こうとするも、引っ張られて右往左往。振り返ると皇帝が扇子を仰ぎながら素知らぬ顔で布の端を踏んでいる。どいてもらうよう促すがなかなか応じてもらえない。もう知らない、と離れようとする李鳳姐を皇帝が咳払いで引き留める。
布を踏んでいないのを確認してさあ行きましょうと李鳳姐が動くと、さあ踏みましょうと身構える皇帝。そこを見止めた李鳳姐がなだめて再び行こうとするも引っ張られる。また布の端が踏まれている…李鳳姐は布を手繰り寄せて皇帝に近づき、遠くを指さして気を反らしている間に布を手にする。
セリフは一切交わされないやりとりが、可愛らしくて面白い。
上等の酒を頼むからにはお代をお先に、と李鳳姐が手を差し出すとその手を握ろうとする皇帝。
「テーブルの上に置いてください」
「滑り落ちたら困る」
「拾いますから大丈夫」
「おお、ますます心配だ」
「何がご心配ですか?」
「ねえさんの腰の筋をちがえないかってね」
お金をテーブルに置いたものの渡そうとしない皇帝に困った李鳳姐。
「古い画軸はお好きでしょう?このお店の中に飾ってありますのよ」
皇帝がどこに?ときょろきょろしている隙に李鳳姐はお金を手にして
「ここですわ」
と手のひらに載せたお金を指し示す。
酒代として貰うには金額が多いがさすが皇帝、髪飾りでも買いなさい、と太っ腹。
「では客室へどうぞ」
「ちょうどねえさんの寝室へ行こうと思ってたとこでね」
「客室です!」
困ったお客。それでも懲りずに皇帝は、客室へ案内している途中に通りかかった李鳳姐の寝室へ入ろうとする。ふざけ過ぎのこの客をあしらうため、李鳳姐は客室の扉の前まで案内するものの締め出してしまう。
準備に専念する李鳳姐。テーブルを拭いてお酒を運んでくるとふと、ちょっとふざけてお客のまねをしてお酒をちょっと飲んでみる。うわっ苦い!残りのお酒をそっと元に戻す。このシーンはセリフがなく、李鳳姐のしぐさがかわいいみどころ。
準備が終わって、皇帝を呼ぶがなかなか来ない。どこに行っちゃったのかしら…お盆を拭いていると皇帝が後ろから忍び寄ってきて李鳳姐の頭を扇子でパチッと軽く叩く。いたずらっ子のようである。
家の中を見て回る皇帝に何が面白いのかと李鳳姐が問うと
「いやいや、なんでも見たくなるのさ。美しいねえさんもとにかく見たくなる」
「ではお好きなだけご覧になるとよろしいわ」
「おお、なんと気前のいいことだ」
プイっと膨れて立つ李鳳姐の周りをぐるりと回ってじっくり見る皇帝。
「いやあ満足満足」
と喜ぶ皇帝にお盆で打つと構える李鳳姐。(皇帝ゆえに)今まで打たれたことがない、打つといいよと皇帝。
「やっぱりやめておきます。だって怒らせちゃいますもの」
「大丈夫さ」
「じゃあぶっちゃいますよ!」
と和気あいあいな雰囲気。李鳳姐との関わりに皇帝は安らぎを感じる。
皇帝は席に着いてしばらくしないうちに李鳳姐を呼びつけ、綺麗どころがいないと文句をつける。ここにはそんなものはないですと言う李鳳姐に皇帝は言う。
「酒を注いでくれ」
「お酒は売りますがお酌はしません」
李鳳姐は断固として断る。ではほかで飲むから渡したお金を返してくれ、と皇帝が言うと素直に取りに行こうとする李鳳姐。
「待て待て。私がこんな食い散らかした後でお金ももらってないとなると、お兄さんになんて弁解するんだね?」
皇帝に言われて困った李鳳姐。
「将軍様、この家のネズミは色が白いんですのよ。ほらそこにいますわ」
ええ?どこどこ?と皇帝が向こうを見ている隙に盃に酒を注ぐ。
「はい、ここですわ」
「これは何だね?」
「私が注いだお酒です」
「こんなの十杯でも百杯でも何だって言うんだ」
やっぱりできませんと李鳳姐に皇帝は自分が渡したお金は盗品であり、お兄さんにも累が及ぶやもしれない、と言って去ろうとする。
李鳳姐は観念してお酒を注ぎ、皇帝は盃を飲み干す。
不機嫌な李鳳姐。また、お酌する手に触れるのはしばらく馬に乗って矢を射っていないから爪が伸びて偶々だと皇帝は手を差し出し、手遊びがてら李鳳姐の手を握ってくる。
住まいはどこかと訊ねる李鳳姐に皇帝は紫禁城の中だと答えると、
「なら、あなたは私の義姉のお兄様ね。ひとをからかうもんじゃありませんわ」
と信じようとしない。
そして海棠の花を髪に刺し直してやろうと近づく皇帝から李鳳姐はとうとう逃げ出す。
花はこめかみに、扇子は襟の後ろに刺す正徳帝のいでたちはなかなか洒落てます。
扉を締め切り、絶対に開けませんとがんばる李鳳姐だが、扉の外で皇帝は兄が帰ってきたかのように振舞ってまんまと部屋に入り込む。
叫んで人を呼ぶという李鳳姐に、とうとう皇帝は自分の身分を明かす。その証拠として皇帝のみが身に纏う衣装を見せる。青い質素な服の合間から、黄色地に金色のまばゆく光る五つ爪の龍の刺繍が垣間見える瞬間である。
それを見て本当の皇帝であることを知った李鳳姐は、跪いて位を授けてもらうように請う。
「ねえさんの嫂の兄が位なんか与えられないだろう?」
ととぼける皇帝。じゃあいいです、とすねる李鳳姐をまあまあと押し止め后妃に迎えようと柵封する。
「さあ、こちらへどうぞ」
にっこり笑う李鳳姐の言葉に皇帝、ふと思いとどまる。
「わたしは怖い」
「何が怖いのですか?」
「お兄さんは帰ってこないのか?」
と言う皇帝に、この時間にはもう兄は帰ってこない、大丈夫と答えて李鳳姐は部屋に招き入れるのであった。
鑑賞
芝居の一部です。