2024/02/24更新
テレビドラマが京劇の舞台でシリーズ化
賀歳京劇連台本戯《宰相劉羅鍋》
解説
「賀歳京劇連台本戯」とは
中国では新暦の元旦よりも旧正月の春節を祝うのが伝統的な習慣です。
表題の「賀歳」とはお正月を祝う、「連台本戯」はシリーズという意味です。この芝居は春節に公演を定めた続き物として企画された新作の京劇です。
公演
初演は2000年に第一話と第二話、2001年に第三話と第四話、2002年に第五話と第六話。春節の時期に三年に渡って二話ずつ上演されましたが、それぞれキャストが異なります。
2003年2月には全編を北京・長安大戯院にて上演されました。
中国ではまだ珍しいロングラン形式の公演が試みられ、上海、南京、台湾など各地で公演されて好評を博しました。
テレビドラマの舞台化
物語は1996年に放送された個性派俳優・李保田が主演の人気テレビドラマがもとになっています。
ときは清代、そのなかでも最も隆盛を極めた乾隆帝の時代。
主役の劉墉は実在した人物です。表題の「羅鍋」とは「せむし」という背中がいびつに盛り上がった者のことをさします。一見さえない男が切れる頭で様々な事柄を切り抜けていく痛快な物語です。
豪華な顔ぶれ
北京京劇院が主体となっていますが、所属を超えた選りすぐりを集めた舞台です。
脚本、作曲、俳優とその顔ぶれは錚錚たるもの。俳優陣はスター勢揃いでそれぞれが流派や個性を全面に出していました。
さらに「京劇」と銘打ってますが北京人民芸術劇院の著名な演出家・林兆華を始めとして、演出、舞台美術、衣装デザインなどは話劇(現代演劇)の一流の製作者が手がけています。
脚本や演出、舞台、衣装について素晴らしい画期的なところが多々あります!がそれはまた改めて。
[脚本]陳健秋(一本) 陳亞先(二本) 敏鉞(二本)
[演出]林兆華 田沁鑫 石玉昆
[音楽監督]趙李平
[作曲]朱紹玉
[舞台美術]黄海威
[衣装]成曙一
[照明]易立明
[打撃楽設計]金惠武[鼓師]金惠武 封謙 [琴師]艾兵
キャスト
劉墉
陳少雲 Chen Shaoyun(上海京劇院:麒派[麒麟童:周信芳]老生)
李岩 Li Yan(中国京劇院:余派[余叔岩]文武老生)
格格
董圓圓 Dong Yuanyuan(北京京劇院梅蘭芳京劇団:梅派[梅蘭芳]青衣)
和珅
羅長徳 Luo Changde(北京京劇院:花臉・武生)
葉国泰
劉建元 Liu Jianyuan(北京京劇院:花臉)
六王爺
孔新垣 Kong Xinyuan(中国京劇院:京崑丑・彩旦)
吟紅
王怡 Wang Yi(北京京劇院梅蘭芳京劇団:刀馬旦・青衣)
※所属は当時の名称です
主演の陳少雲は麒派。台詞や所作が巧みな周信芳(1895-1975)の芸風は新しいものへ挑戦する舞台との親和性が非常に高いです。納得の安定感があります。
乾隆帝演じる李岩は老生の李宗義(1913-1994)を父に持つ文武に長けた役者です。
舞台以外でも1989年の中国映画『西太后』(原題:一代妖后)に出演。1993年の中国映画『さらば、わが愛 覇王別姫』(原題:覇王別姫)では項羽のうたと台詞をあてています。
董圓圓は四大名旦のひとり・梅蘭芳(1894-1961)の息子である梅葆玖(1934-2016)を師と仰いでいます。当時みた馬派(馬連良)老生の張学津(1941-2012)と共演の《遊龍戯鳳》や《打猟殺家》が印象的です。それはまた後日改めて。
あらすじ
第一本 初試
ときは清代、最も隆盛を極めた乾隆帝の治世。
囲碁を楽しむ乾隆帝はかつて自分の囲碁相手だった親戚筋の六王の娘・格格が美しく成長したのを聞いて後宮に入れようと望む。
後宮のわずらわしさを嫌う格格は、碁で自分を負かした者を婿にすると広く宣伝する。格格は挑戦者たちを負かしていくが、山東から科挙(官吏登用試験)を受けに来た劉墉に負けてしまう。
寵臣・和珅をお供に身分を隠して訪れていた乾隆帝は異議を唱えて劉墉と勝負をする。相手は皇帝と明かされて劉墉は進退窮まる。真っ向勝負も叶わず辞退もできず勝っても負けても死あるのみ、劉墉は指そうとしていた勝ち筋の駒を口の中に入れて飲み込み助命を求める。乾隆帝は将棋盤を取り下げることで機転の利く劉墉を殺さないとの意味を示す。
劉墉は本来の目的である科挙に挑むが落第する。劉墉は試験会場に掲げられている扁額の「貢院」(試験会場)という皇帝直筆の文字に手を加えて「賣完」(売り切れ)と書き換える。
申し開きのため劉墉は乾隆帝の前に召し出される。劉墉は試験問題流出の不正行為があったことを訴えて証拠を突き付る。実際、上位合格者たちは無能で試験問題を買ったことを白状する。得ていたお金を密かに和珅へ送っていた試験監督は処罰される。
乾隆帝は劉墉の答案を見てみると出来栄えが素晴らしく、即興で作詩させるとその実力は申し分なかった。
その折、朝貢国から書簡が届くが朝廷の誰も意味を解することができない。劉墉はその場で訳し、対策を考え、見事に返事を書き上げる。乾隆帝は改めて劉墉の類稀なる才能に感じ入り官吏として登用する。
劉墉は晴れて格格と華燭の典をあげるがその夜、乾隆帝が祝いと称して訪れる。格格と碁を楽しみたいと洞房(花嫁の部屋)で対局を始める。時を同じくして家族を連れずに直ちに任地に赴くよう聖旨が下されるのであった。
ポイント
乾隆帝の寵臣・和珅は劉墉の存在を面白く思わず、今後に渡ってちょくちょく邪魔をしてきます。劉墉も黙ってはいません。朝貢国への返事を書き上げる際に、劉墉は和珅に靴を脱がせて墨を摺らせます。
これは唐代の詩人・李白の逸話「力士脱靴」にまつわるもの。楊貴妃の提案で玄宗から宴の場に呼び出された李白は詩を詠むように命じられることがありました。酒好きで酔っ払っていた李白は、楊貴妃に仕える高力士に靴を脱がせて墨を摺らせます。権力者の機嫌など意に介さない豪放磊落な李白は反感を買って結局宮廷から去ることになります。
上京にあたり履いてきた新しい靴がきついから脱がせてほしいと理由をつけてきた劉墉に対して、和珅は結婚祝いとして「小鞋」を贈ります。ちなみに「小鞋」は合っていない窮屈な靴ということで意地悪い仕打ちの意味合いがあります。
Pekin Opera 北京京剧院演出《宰相刘罗锅之初试》 - YouTube
第二本 夜審
劉墉の上司に当たる江蘇巡撫・葉国泰は治水工事の予算に当てられている国庫の銀を横領して、三十里しかない堤防を三百里と偽って報告していた。
乾隆帝の巡幸の折に発覚するのを恐れた葉国泰は、江南で評判の美女・吟紅を差し向ける。
身をやつしていた乾隆帝は吟紅をめぐってケンカになった無頼漢を殺してしまい、劉墉の部下によって牢屋へ入れられしまう。
劉墉は牢屋にいるのが乾隆帝だと知って仰天し、悩んだ挙句一計を案じる。
蝋燭一本の明かりだけの相手の顔もよくわからない暗闇の中で取調べを始め、火事を演出して乾隆帝を逃がすように仕向ける。そして逃亡者を追うふりをしてわざと乾隆帝を堤防のほうへ追い込む。
夜も明ける頃、三百里と聞いていた堤防が三十里しかないのを乾隆帝は目の当たりにする。
乾隆帝を追ってきた劉墉は捕らえて来た葉国泰を突き出す。劉墉は都へと戻されることになる。
宰相刘罗锅(京剧) 2 宰相刘罗锅(二) 夜审 - YouTube
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