2023/07/10更新
《拾玉鐲》
玉の腕輪は婚約の証
あらすじ
書生の傅朋は通りかかった門前で、刺繍をしている少女・孫玉姣を見初める。
そこで将来の伴侶に渡すようにと母からもらった一対の玉の腕輪のひとつを、傅朋はわざと門前に落とす。孫玉姣にそれを拾わせて受け取らせる。
この様子を密かに見ていた劉媒婆は、恥ずかしがって隠す孫玉姣をからかいながらも仲人を引き受ける。
劉媒婆は玉の腕輪のお返しとして孫玉姣が作った彩鞋を持っていく…《法門寺》につづく。
ポイント
役者の動き、細かいしぐさが見所の芝居。
孫玉姣 花旦
傅朋 小生
劉媒婆 彩旦
解説
孫玉姣が登場。
「小飯単」というエプロンのようなものをつけている。一般に、上部に「如意頭」という吉祥柄、下部には花柄が使われている。ズボンには「四喜帯」というものをつける。この二つはセットで、一般に素地は黒色。
少女の快活さと、その動きに伴うしなやかさを感じさせるデザイン。これぞ「花旦」という典型的なキャラクター。
孫玉姣は父を早くに亡くして、母とふたり雄鶏を養って生計を立てている。
母がお寺へお経をききに出かけたその日、孫玉姣はひとり雄鶏を檻から出し餌を与えて門の外で刺繍をしていた。
鶏を追うところ、刺繍をしている様子など、実際にものがあるわけではなく、すべて役者の動きによって表現されるみどころ。
鶏を檻から出して餌を撒いて…あら、何か目に入っちゃった、痛い痛い、ハンカチで取ってみましょう、ああ取れた。
さあ、刺繍の続きをしましょう。本を出して…ああ、これがいいわ、針に糸を通して…。
楽隊により「曲牌」が奏でられる中の動き。糸を引っ張って、口で加えて切るとき動作などには、京胡が効果音を出す。
傅朋が登場。武官の性格を帯びているので、頭には「武生巾」、衣装は便服の「花褶」を纏っている。
通りかかって可憐な孫玉姣を見初めた傅朋。
まずはきっかけづくり。鶏を売って欲しいと声をかけてみる。留守番なので売ることはできませんと孫玉姣に言われて、それではまた出直しますと一旦引き下がる。
僅かだが会話を交わしてみてますます孫玉姣を気に入った傅朋。母から結納品として使うよう渡されていた一対の玉の腕輪のひとつを取り出し、受け取らせるべくわざと門前に置いてみる。
「いまの格好いいひとはなんだったのかしら?」
と門を開けてそっと覗いた孫玉姣。
ふと見ると玉の腕輪が落ちている。拾おうかしら…でも…悩みに悩む。周囲を気にしつつさりげなく落ちている腕輪の上にハンカチを落として、ハンカチ共々拾い上げる。
物陰から見ていた傅朋が現れる。傅朋のものだと知って孫玉姣は返そうとするのを遮り、結納品として受け取らせる。
その一部始終を見ている者がいた。
突然の幸せに喜びを噛みしめている孫玉姣。そこへ近所に住む劉媒婆が訪ねて来る。
劉媒婆の役柄は「彩旦」、行当が「丑」の男性が演じることが多い。
孫玉姣はとっさに玉の腕輪を隠そうとするがなかなかいいところがない…自分の腕にして深深と袖の中に隠す。
劉媒婆はとりとめもなく世間話をしつつ、急にテーブルクロスをひっくり返してみたり玉の腕輪の行方を追う。孫玉姣はずっと自分の片手を隠したまま、あやしい…。
「きれいな髪飾りに虫がついてるわよ」
劉媒婆に言われて孫玉姣が慌てて虫を払おうと頭に手をやると手首には玉の腕輪が。とうとう見つかってしまう。
「それってどうしたの?」
「買ったんです。すごく安かったんです」
「あら、そんなに安かったの?じゃあ売ってちょうだいよ」
構って欲しくない孫玉姣、構いたい劉媒婆。
頑なな孫玉姣に劉媒婆はとうとう「私は見てたのよ~」と、孫玉姣が玉の腕輪を手にした一部始終をそっくり再現し始める。孫玉姣はその様子をバツが悪そうに見ているが、劉媒婆の演じるものまねが可笑しく笑いを誘う場面。
意地悪くからかっていたものの世話好きの劉媒婆は、私に任せなさいと仲人を買って出る。しかし結納返しの品を持っていくときでもおちょくることは忘れていない。
「おばさん、何日くらいかかるかしら?」
「そうねえ。早くて三年ね」
「遅すぎるわ」
「だったら三ヶ月」
「まだ遅いです」
「まだ遅い?じゃあ三日でどうよ!」
三日ときいてうれしさがこみ上げてくる孫玉姣。見送りながら劉媒婆に何度も念を押す。
実にほのぼのした話、これが一転して残虐な殺人事件へと発展していくのであった。続きは《法門寺》で。そのまま下へスクロールしてご覧ください。
鑑賞
資料映像《拾玉鐲》 劉秀榮が演じる孫玉姣
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《法門寺》
可笑しみのあるめでたい雰囲気から一転 恐ろしい殺人事件へ発展
あらすじ
明代。太監の劉瑾は皇太后の義子として大いに勢力を振るっていた。
皇太后に付き従って部下の賈桂と共に法門寺を訪れると、宋巧姣という娘が冤罪を訴えてくる。
婚約者の傅朋が証拠もないまま無理やり自白させられて殺人の罪で投獄されているという。
この件を皇太后から任された劉瑾は、所轄の縣令・趙廉に再捜査をさせる。
趙廉は真相を明らかにして真犯人を劉瑾に引き渡す。
趙廉 老生
劉瑾 浄
宋巧姣 青衣
賈桂 丑
宋国士 老生
皇太后 老旦
劉媒婆 彩旦
劉彪 浄
劉公道 丑
孫玉姣 旦
傅朋 小生
データ
《法門寺》またの名を《郿塢縣》、《佛殿告状》。《拾玉鐲》と併せて《双姣奇縁》、《朱砂井》。
浄、丑、老生の台詞や唱がききどころ。行当(役柄)が揃った群戯。
解説
明代正徳年間。皇太后の義子として勢力を振るう太監・劉瑾は皇太后に従って法門寺へ焼香に訪れる。
そこに宋巧姣という娘が冤罪を訴えてくる。
劉瑾の部下・賈桂が宋巧姣の告訴状を読み上げる場面はききどころ。
宋巧姣の婚約者は傅朋という書生で、彼が落としてしまった玉の腕輪を孫玉姣という娘が拾った。その様子を見ていた劉媒婆が仲立ちをしようと買って出て孫玉姣から彩鞋を受け取る。劉婆の息子・劉彪は彩鞋を持ち出して傅朋をゆすろうと脅すが、土地の世話役の劉公道に止められる。その夜、孫玉姣の親戚男女二人の命が奪われる事件が起きる。証拠もないまま傅朋は捕らえられ、拷問によって無理やり自白させられたというのだ。
皇太后からこの件を任せられた劉瑾は、所轄の縣令・趙廉を呼び出す。
傅朋が自白して適正に審議していると報告する趙廉に異を唱える宋巧姣。
宋巧姣が連れてきた劉媒婆が彩鞋は孫玉姣からせしめたと白状する。劉婆の息子の劉彪は屠殺を生業として刀を持ち歩いていており、劉彪こそが真犯人だと宋巧姣は訴えて、趙廉の杜撰な調査や怠慢を糾弾する。
趙廉は非を認めて三日以内の再審を約束する。
晴れて訴えが認められた宋巧姣は父の宋国士に報告する。宋国士は娘の無事に安堵する一方、消息がわからなくなっている息子の行方を捜しに出る。
趙廉は劉媒婆を連行し、劉彪、劉公道を捕らえる。
改めて捜索して、刀と彩鞋を押収する。
劉彪は深夜に孫玉姣の家に押し入り、聞こえてきた男女の声を傅朋と孫玉姣のふたりのものと思い込み、刀を振るって殺害したと自白する。
発見時に女性の遺体には首がなかったため、どこにやったのか更に趙廉が問いただす。劉彪はゆすりの邪魔をしてきた劉公道の家の庭に置き去ったと答える。
劉公道は庭に首があったことを認めて、井戸の中に投げ込んだことを自白する。
井戸を捜索すると供述通り首が見つかる。それに加えて頭部に打撲痕のある死体が出てくる。
その死体は首を井戸に捨てる際、その場にいた奉公人の宋興兒だった。口封じのために劉公道に殺されたのだった。
捜査の様子を見にきていた宋国士は、思いがけず息子の名前を聞いて嘆き悲しむ。宋興兒は盗みを働いて逃走したと劉公道に訴えられて、宋国士は賠償金を支払わされていたのだった。この件をよく調べもせず、別件で娘の婚約者まで投獄した趙廉に怒り心頭でその場を去る。
趙廉は劉媒婆、劉彪と劉公道を護送して劉瑾に引き渡す。
趙廉の道中の唱はききどころ。また、劉瑾への取り次ぎの際に賈桂へ銀を送るやりとりも見どころ。計算高い「人」の一面が描かれている。
劉彪と劉公道は斬罪となり、皇太后に接見して気に入られた孫玉姣、宋巧姣はふたりとも傅朋と結婚することになる。趙廉は知府に封じられる。
鑑賞
中国京劇音配像精粹《法門寺》1995年10月制作(1時間47分10秒)
趙廉…[録音]馬連良[配像]張学津
宋巧姣…[録音]張君秋[配像]趙秀君
劉瑾…[録音]裘盛戎[配像]裘少戎
賈桂…[録音]蕭長華[配像]鄭岩
「音配像」とは こちらをどうぞ