2024/04/11更新
初夏に舞う雪 天が無実を証明する
程派(程硯秋)の名作のひとつ
《竇娥冤》 DouEyuan 《六月雪》 Liuyuexue
あらすじ
明代。
秀才(科挙[官吏登用試験]の最初の試験に受かり学校で学ぶ者)の蔡昌宗( Cai Changzong さい しょうそう)は試験のため上京する際、使用人の息子・張驢児( Zhang Luer ちょう ろじ)を随行させる。
蔡昌宗の妻・竇娥( Dou E とう が)を自分のものにしたいと企む張驢児は途上で蔡昌宗を淮河へ突き落とす。
戻った張驢児は蔡昌宗が河に落ちて死んでしまったと嘘をつく。蔡昌宗の母は悲しむあまり寝込んでしまう。
張駱児は毒を仕込んだ羊の内臓のスープを蔡昌宗の母に飲ませて殺そうとする。蔡昌宗の母は生臭く感じて口にせず、下げさせたスープを張驢児の母が飲んで死んでしまう。
張驢児はこの機に乗じて邪魔な蔡昌宗の母を殺人の罪で役所へ訴える。
母は冤罪を訴えるものの拷問を受ける。苦しむ母をかばうため、竇娥は身代わりになる。刑がまさに執行されようとするとき、初夏の六月にもかかわらず突然大雪が降って県官は恐れおののく。そのとき地方を監察する職務にあたっていた竇娥の父・竇天章( Dou Tianzhang とう てんしょう)が現れる。
村民たちからこぞって竇娥の冤罪を訴えてきたのを受けて竇天章は改めて事件を取り調べて張駱児を捕らえる。
竇天章によって救出されていた蔡昌宗は官吏登用試験で首席となり、故郷に錦を飾って一家が再会する。
竇娥(蔡昌宗の妻) 旦
蔡昌宗(竇娥の夫) 小生
蔡母(蔡昌宗の母) 老旦
竇天章(竇娥の父) 老生
張氏(蔡家の使用人) 彩旦
張駱児(張氏の息子) 丑
県官(県の官吏) 丑
解説
またの名を《六月雪》、《斬竇娥》、《金鎖記》、《羊肚湯》。元の関漢卿《感天動地竇娥冤》雑劇、明の葉憲祖《金鎖記》伝奇をもとに程硯秋が制作。
実はもとの話では竇娥は処刑されてしまいます。
竇娥は冤罪の証として自分の死後、辺り一面雪が降って三年間は干ばつに見舞われると言い残して刑が執行。言葉通り大雪が降ります。父の竇天章が駆けつけたものの後の祭り。この件を再審して県官と張駱児ふたりを斬首にするも戻らぬ娘の死を嘆くという悲劇です。
今回のあらすじは1999年3月27日人民劇場で李海燕が主演で中国京劇院二団が上演した内容に沿っています。
のちほどご紹介する北京京劇院青年団の芝居では、竇天章ではなく明代の官僚・海瑞 Hai Rui (1514-1587)が登場。海瑞が真相を明らかにします。
海瑞は皇帝に諫言するため、自身の棺を用意して挑んだ清官。庶民に人気があります。
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竇娥が刑場に連れていかれるところのうた[反二黄慢板]はききどころ。
「天にのぼる道はなく、地に入る門はなし。恐ろしさのあまり、ああ…魂も消し飛んでしまう」
[反二黄慢板]
このような受難に見舞われるいわれなく、天は賢愚の区別もないのか。
善人はなぜ天の咎めを受けて悪人はなぜ寿命を延ばすのか。
満面に涙を流すなか刑場を行く。
わたし竇娥が死ぬは哀れと皆は言う。
一目でもお父様にはお会いできない。
瞬く間轟音の響きと共に損なわれた死体となる。
「おふたりとも…処刑後はわたしの首を隠してくださいませんか。お母様はご高齢で、首を目にしたら命にかかわるかもしれません。どうかお願いいたします」
自身を左右から抱える刑執行人ふたりに憔悴しながら願う竇娥。
鑑賞
京劇《竇娥冤》 北京京劇院
竇娥:遅小秋
蔡母:沈文莉
蔡昌宗:包飛
張駱児:孫震
禁婆:徐孟珂
張母:梅慶羊
海瑞:張凱
胡里図:黄柏雪
蘆掌櫃:曹陽陽
中軍:景宝琪
司鼓:王蔵 操琴:沈媛
「中国京劇像音像集萃」より
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程派の俳優たち