2024/11/13更新
「四大名旦」のひとり、程硯秋。人気が高い程派は、その芸風を受け継ぐ俳優が多くいます。
1999年に創刊された新聞「梨園周刊」において、当時、活躍している程派の青年俳優らが読者から評価を受ける企画がありました。
程硯秋の弟子や程派の伝承者である趙栄琛、王吟秋、李世済、李文敏、陳琪に指導を受けていること、《鎖麟嚢》《荒山泪》《六月雪》などの程派の代表作をはじめ、ある程度の芝居を習得していることなどを条件に編集部が選出。
舞台姿、うた、台詞、演技、創造性、芸術的品性の六項目でそれぞれ3点(優秀)、2点(良好)、1点(一般)と点数をつける方法で、更に読者から幅広く推薦と評価を募りました。有効6376票のほか不備による無効181票。
程硯秋に冠された「四大名旦」ならぬ程派の後継者たち「五小程旦」と称して、李海燕、張火丁、遅小秋、李佩紅、劉桂娟の五人の名が挙がりました。
それぞれの俳優について当時の様子を中心に、私見を交えて簡単にご紹介します。所属は1999年当時の名称です。
李海燕は中国京劇院。
体つきや声が良く、首都・北京での上演とレパートリー共に多いです。演技には抑えめ故の程派の上品な鷹揚さがあります。
張火丁は中国京劇院。
程硯秋の直弟子のひとり趙栄琛(1916-1996)の弟子となってから破竹の勢いで実力を発揮、高い人気を誇ります。
とにかく演技が細やか。唱、動き、佇まいにさえ重い情念が込められていて魅入られます。
遅小秋は沈陽京劇院。
程君秋の直弟子のひとり王吟秋(1925-2001)を師と仰ぎ、劇作家・翁偶虹(1908-1994)から「程派の標準的な伝承者」と評されています。
早くから頭角を表しており、確かな実力と雰囲気があります。
李佩紅は天津京劇院。
もともと刀馬旦で名を馳せていましたが、ずっと程派を演じたいという願いを叶えて王吟秋の弟子となりました。老生の張克と《紅鬃烈馬》を演じた折は、王宝釧と代戦公主の二役をこなしていました。
劉桂娟は天津京劇院。
師にあたる李世済(1933-2016)の演技もうたい方もそっくりです。
河北梆子から京劇に移植した李世済の芝居《陳三両爬堂》を見たとき、本当に大泣きしながらうたっていたのには(京劇の舞台で実際に泣くというのは珍しいことなので)驚かされました。
程硯秋を父のように仰いで教えを受けた李世済。
表情豊かで活発な演技と音を切って大きく口を開けたり閉じたりを多用するうたい方には、他とは異なる独特の解釈と強い個性を感じます。好みが分かれるところでしょうか。
程派は《荒山泪》や《六月雪》など悲劇の作品が秀逸ですが、よく上演されるのはやはり《鎖麟嚢》。それぞれの単独主演はもちろん、場面を演じ分けての豪華共演も度々ありました。
同じ俳優でもその時々で変化はありますが、李海燕、張火丁、遅小秋、李佩紅、劉桂娟、李世済それぞれの《鎖麟嚢》春秋亭の一折を集めてみました。
それぞれの趣や味わいがあります。どうぞご覧ください。
春秋亭外風雨暴,何処悲声破寂寥。
隔簾只見一花轎,想必是新婚渡鵲橋。
吉日良辰当歓笑,為甚麼鮫珠化涙抛。
此時却又明白了,世上何嘗尽富豪。
也有飢寒悲懐抱,也有失意痛哭口嚎啕。
轎内的人児弾別調,必有隠情在心潮。
李海燕
「角児来了」より
15:21~《鎖麟嚢》最後の場面「団圓」
23:00~《鎖麟嚢》登場場面の「選妝奩」
ちなみに番組後半は李玉声 29:50~
張火丁
「名段欣賞」より
6:50~《鎖麟嚢》「一霎時把前情」
13:03~《江姐》
全部は上掲の演目紹介でご覧いただけます
遅小秋
「2022年春節戯曲晩会」より
全部はこちらでどうぞ Peking Opera “The Unicorn Purse” (Full Length) - YouTube
李佩紅
「中国京劇像音像集萃」より 2017年10月
後半はこちら 京剧《锁麟囊》 2/2 (贫女富女同日出嫁结缘锁麟囊)来自 《中国京剧像音像集萃》 20190427 | CCTV戏曲 - YouTube
劉桂娟
動画が非公開になってしまったのでこちらの李海燕と張火丁と共にうたっている春節の映像をどうぞ
李世済
1996年資料映像