中国京劇雑記帳

京劇 すごく面白い

京劇演目紹介《大鬧天宮》(西遊記)

2023/07/13更新

 

みんな大好き!孫悟空 天宮で大暴れ

 

 中国の古典名著『西遊記』は唐の高僧・玄奘三蔵法師)が仏典を求めて天竺(インド)へ旅した史実がもとになった物語。孫悟空猪八戒沙悟浄らをお供に妖怪変化と戦い困難に立ち向かう冒険譚。

 この芝居は孫悟空三蔵法師と出会う前の話です。

 

天に斉(ひと)しい!

 

 

 

あらすじ

 仙石から生まれた孫悟空は広大な神通力を持ち、花果山の水簾洞を住処に「美猴王」として猿たちを束ねています。

 自身の武器として竜宮にある如意金箍棒を手に入れたことから東海龍王・敖廣に訴えられます。力で抑えることが難しいことから、太白金星の進言により玉帝は「弼馬温」という神馬の世話をする官職を与えて従わせようとします。

 待遇に不満を持った孫悟空は水簾洞に戻り「斉天大聖」と名乗ります。玉帝は怒って討伐しますが敵わず、名ばかりの官職として認めて孫悟空を桃園の管理に任命します。

 しかし孫悟空は仙桃を食べてしまった上に、神仙たちがの仙桃を食する宴で準備されていた酒肴を飲み食いして、金丹を盗み食いしてしまいます。

 孫悟空は捕らえられて八卦炉に押し込まれますが、ものともせず飛び出して大暴れ。天王李靖が率いる十万の天兵天将も歯が立たないのでした。

 

データ

 別名《安天会》、《閙天宮》。

 小説『西遊記』第五回、第六回をもとにつくられた京劇の伝統演目。

 楊小楼、蓋叫天、李万春、李少春など著名な俳優らによって演じられてきました。

 

 

鑑賞&解説 京劇映画《大鬧天宮》舞台版

 京劇映画《大鬧天宮》は福建京劇院と福建電影制片厰の共同制作。劇作家・翁偶虹の脚本をもとに李少春の舞台を参考にしています。2020年9月18日に封切り上映されました。

 こちらは福州・鳳凰劇院にて上演された映画の舞台版です。

 

舞台監督:張四全

キャスト

 孫悟空…王璐(中央戯劇学院)

     李哲(福建京劇院)

     魏学雷(北京京劇院)

     詹磊(北京京劇院)

 李靖…舒桐(中国戯曲学院)

 二郎神…奚中路(上海京劇院)

 李長庚…趙華

 太上老君…張萌

 監正…張飛

 監副…梁長賓

 馬王…黄嵩

 玉帝…崔智

 天喜…昝旭東

 敖廣…李長平

 巨霊神…彭暁亮

 哪吒…郭士銘

 青龍…黄臣

 白虎…李延柯

 計都…李紅賓

 小猴…時増帥

 天罡…于帥

 地煞…閻帥

 紅鸞…鄭鈺

 月孛…劉泳渤

 風婆…徐子惠

 雨神…盧奇彤

 雷公…王兆斳

 電母…陳天陽

 馬天君…張敏

 趙天君…林仁冰

 温天君…郭凱寧

 劉天君…劉鎖進

 金吒…孫風坤

 木吒…姜智森

 九曜…李献科

 羅睺…張飛

 大仙女…張美超

 南斗星…王貴忠

 北斗星…李長平

 哮天犬…高芸振

 

 

[前半]

1時間18分10秒

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第一場 凌霄殿

[0:02:12~]

 玉帝(浄・銀三塊瓦神仙臉:映画では銀色です)を中心に天喜(文小生)らが揃う中、東海龍王・敖廣(浄・白三塊瓦老臉)は、孫悟空が竜宮で大暴れして如意金箍棒を持ち去られたと訴えます。

 太白金星・李長更(老生)は敢えて官吏とて登用して懐柔するよう進言します。

 

 

第二場 水簾洞

[0:07:04~]

 にぎやかな猿たちを見ていて本当に楽しいです。動きが素晴らしい。

 一人目の孫悟空役・王璐登場。[0:09:10~]

大王として君臨していますが翎子で仲間の猿をくすぐったり、お返しに毛づくろいされたりと慕い慕われている姿が実にいいですね。

 

第三場 御馬監

[0:18:49~]孫悟空王璐

 孫悟空が昆曲をうたいながら扇を用いて舞う場面は見事でみどころ。[0:23:30~]

 彩球がついている馬鞭をあやつることで調教が難しい神馬を孫悟空が見事に御する動き、表現が素晴らしいです。[0:30:25~]

 

第四場 紫宸宮

[0:41:48~]

 禁中にて孫悟空の不遜な態度を報告する馬王。馬王の兜は、馬の頭が象られているのがポイント。

 

第五場 花果山

[0:47:48~]孫悟空王璐

 「斉天大聖」として武将のフル装備で「起覇」を披露。本来「起覇」とは武将が戦いに挑む前に自身の状態確認や装備の点検を表現する動きです。この場面だけに限らず全てにわたって全くぶれずにピタッと決まる、ひとつひとつの動きが実に美しい。《挑滑車》《夜奔》も生で見たいですね。[0:51:31~]

 猿たちに連れられてきた太白金星・李長更は感情の高ぶりを老生としてヒゲの動きの技でみせます。

 李長更と対面しながら、椅子の上での孫悟空の動きもみどころ。

 

第六場 閙瑶池・盗丹

[1:00:55~]

 二人目の孫悟空役・李哲登場。[1:04:05~]

 「北派(京派)」色といいますか北京風味が強い中で、福建京劇院からの出演。飲み食いする表情の豊かさや口元をはじめとした細かい動きから全てに渡って実に活き活きとした演技。

 

[後半]

1時間5分37秒

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つづき第六場 閙瑶池・盗丹

 二郎神・楊戩(武生・金三塊瓦神仙臉)が登場。奚中路を配するところがさすがです。

 

二郎神役の奚中路についてはこちら

 

第七場 闖天門

[0:01:47~]孫悟空李哲

 馬天君(浄・白花三塊瓦老臉)、趙天君(浄・黒六分花臉)、温天君(浄・緑花臉)、劉天君(浄・紅三塊瓦臉)と闘った後、二郎神と哮天犬(白象形臉)に捕らえられます。[0:02:49~]哮天犬がんばりましたね。

 

第八場 八卦

[0:04:44~]

 太上老君が登場。怒ってます。[0:04:50~]

 孫悟空八卦炉にほおりこまれた後、太上老君が「法衣」をまとってうたうのは、節回しもそのままもろに京劇《借東風》の諸葛亮、被ります。[0:07:14~]

 

 

 八卦炉の中の様子として、凄まじさを表すひっきりなしの連続回転の技がすごい![0:12:22~]

 三人目の孫悟空役・魏学雷登場。[0:12:47~]勢いよく八卦炉から飛び出す登場から太上老君をからかいあしらう場面を締めるまで、キレッキレの動きが素晴らしいです。

 

第九場 聚霊台

[0:16:50~]

 インパクトのある見た目と動きの巨霊神を皮切りに天兵天将たちが勢揃い。[0:16:55~]

 それぞれがバラエティに富む姿で大勢で見得を切るのが圧巻。常にいろいろな創作物の題材になっている神仙たちの姿にワクワクします。

[0:19:55~]

 李靖(銅錘花臉・紅尖三塊瓦神仙臉)がその名の通り宝塔を手にして登場。声にエコーがかかっていて司令官としての重量感があります。[0:20:24~]

 

第十場 凱旋図

[0:28:25~]

 四人目の孫悟空役・詹磊登場。[0:28:30~]

 ここからはさまざまな武器を使った立ち回り。あらゆる武戯の技術や表現がこれでもかと堪能できます。

 計都(老生)、四天君たち、青龍(武生・緑象形龍臉)、白虎(武生・白象形臉)、紅鸞(武旦)、月孛(武旦)、哪吒(武小生)と次々と戦います。

 孫悟空李哲再登場。[0:42:21~]

 九曜との立ち回り。

 孫悟空魏学雷再登場。[0:47:30~]

 地煞、天罡、羅睺(碎象形臉/瓦灰象形臉)との闘い。巨霊神(武浄・黒碎花臉/黒花元宝臉)とコミカルなやりとり。[0:51:40~]

 孫悟空王璐再登場。[0:56:20~]

 風婆(旦)、雨神(生)、電公(生・藍象形烏臉)、雷母(旦)との立ち回りを繰り広げます。

 哮天犬を先達に二郎神が登場。[0:59:09~]

 孫悟空詹磊が二郎神、金吒、木吒との立ち回りの後、とんぼ返りの嵐。[0:59:33~]

 孫悟空役の王璐李哲魏学雷詹磊、四人と天兵天将たちが勢揃い。[1:03:07~]

 

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