中国京劇雑記帳

京劇 すごく面白い

コラム 京劇の演唱会とは

2023/11/15更新

 

 名段(名の知れたくだり)をうたう「演唱会」という公演があります。

 実際の舞台と同じように舞台衣装を纏ってメイクもしてうたう「彩唱」、舞台衣装ではなく盛装(会の規模によっては平服または普段着)でうたう「清唱」がありますが後者の方が多いです。

 票友(アマチュア)から国家主催のものとその規模はさまざまです。大規模で究極といえば、一般人が立ち入ることが出来ない共産党幹部が過ごす中南海で催される公演でしょうか。客席はいつもニュースに出てくる共産党幹部の面々が勢ぞろい、舞台は普段お目にかかれない人間国宝のような名優たちが登場します。

 

 

 演唱会が大掛かりに開かれるは、春節旧正月)や労働節(メーデー)などの年中行事や、京劇史に残る名優の記念公演のときなどです。名優の記念公演の演唱会では、その流派を受け継ぐ俳優やゆかりがある俳優たちが出演します。趣旨によっては所属する京劇院を問わず一流の俳優たちが集います。

 

 

 そうした公演では必ず観客が舞台から離れることを許さない役者というのがいます。プログラム通りにうたい終えて幕間に引き下がっても、客席から「唱一段!(もっとうたって!)」という声と怒涛のように鳴り止まない拍手で再び引き戻されてしまうのです。進行役の司会者が強引に進めようものなら観客から恨みを買ってしまう勢い。それを見越してあらかじめ準備をしていても予想以上にアンコールが度重なることがあり、次は何をやるかを楽隊に二言三言ささやいてその場で決めてうたう、なんてこともしょっちゅうです。

 

 

 お客もただアンコールを求めるのではなく、時として客席から具体的に「ここをうたってくれ」と言った声があがることもあります。お客は流派や芝居が他の俳優とかぶっていようが、時間がどれだけ過ぎようが、とにかくききたいものはききたい。こういう調子なので演唱会のタイムスケジュールは予定とおりに行かずに時間がおして、プログラムの内容でさえ変わってくることが多いです。

 

 

 客層にもよりますが直接観客の声が聞こえてきて面白いです。主催者、内容、俳優などを見ると、いろいろな背景が見えてきます。演唱会は俳優のノドを鑑賞するのはもちろん、実に興味深いものでもあります。