2023/09/03更新
京劇における女性の役柄「旦」のメイクの方法をちょっと見てみましょう。
まず、掌に絵の具を出して顔の色を決めて全体に塗ります。ここだけ見るとまっしろけでコワイです。
それから目元に朱を入れます。
「旦」の場合は鼻筋を白く残して頬の方はぼかしながら入れます。粉をはたいて色を定着させ、その後刷毛でその粉を落とします。
目と眉、口を塗る黒色で目と眉を描き込んでいきます。
こめかみに手をあて、眉尻を吊り上げて確認しながら描いていきます。眉は少し円のを描くような三日月眉、一直線に釣りあがった眉、目はアーモンド状の目、流すようにすっとした目、と描き方は人それぞれ。
顔ができたら頭に布を巻いて目元を吊り上げます。
細長い布の半分になるところを額の中心にあてて両端を後ろへ持っていき、後ろで交差させます。再び両端を前に持って来るときに、眉尻のこめかみの部分で皮膚をぐっと持ち上げて目を吊り上げます。
一気に顔つきが変わる、役柄の魂が入る一瞬です。
膠にお湯を足すとねばねばしてきます。それを一握り程の長い髪の房につけて、まな板の上で梳いて形を整えます。
中ほどをひねって丸くしたものを七つ、それと頬につける毛先に行くに連れ細くなった蛇状のものを二つです。
丸くひねった方はひとつずつ、額の上に載せていきます。毛先が細くなっている房は、モミアゲ部分に沿って毛先の細い方を顎の方へと貼り付けます。
これらをつける位置によって輪郭を調節し、顔を大きく見せたり小さく見せたりとできるのです。ちなみに正面から鼻筋を中心にして顔を見ると、見事に左右対称です。シンメトリーを好む中華の文化がこんなところにも出ています。
髪型が一通り終わったら髪飾りをつけていきます。
役柄によってつける髪飾りも異なっています。
髪飾りのほかに、耳元のほうには色とりどりの花をつけていきます。
最初のメイクからすべてが専門・専属の人がついていて本人は座っているだけの美容院状態というある地方劇の看板役者の例もありますが、たいていはメイクや目元の皮膚を吊り上げるところまでは役者本人がやって、ヘアスタイルや衣装はそれらを管理している専門の裏方さんたちがやります。
一般に頭は黒いふちなし帽子のようなものを被って覆い、水に濡らした黒い沙を巻きます。
舞台でよく見かける伝統的な女性の髪型「大頭」は、後頭部の真中にシニョンをつけて、そこに引っ掛けるように長さ１m50cmほど、幅20cm足らずの繊維でできた長い髪の毛をつけます。
見た目はやはり目がスッとつり上がっているのがきれいです。そのために頭をかなりきつく締め上げるので次第にクラクラ、ガンガンしてくることがあります。学校でのゲネプロなどではまだ慣れないために倒れてしまう学生もいます。
自分の一番美しく見える描き方、自分の一番キレイに見える目元の皮膚の吊り上げ方、頭が痛くなって気持ち悪くならないようにする布の締め方など、いい役者は実に自分のことを心得ていて、自分の状態をわかっているものです。
これらは自己研鑽と長年の経験によって培われていくもののようです。
CCTV戯曲頻道「聴君一戯話」
こちらの番組では髪型を作ってく課程が紹介されています。
目元をきゅっとあげる「吊眉」からご覧いただけますが、《賣水》《鳳還巣》《天女散花》彩唱のほか背景や由来などにも触れています。
8:35 片子の準備
15:17 資料映像 孫毓敏（1940-2023）が演じる《痴夢》
20:35 髪飾り（頭面）の紹介
24:40からの彩唱《捧印》はこちらでご紹介
李勝素が演じるのはこちら
