中国京劇雑記帳

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京劇演目紹介《穆桂英挂帥》(楊家将演義)

2024/05/05更新

 

梅派の名作

報国の将・楊家の次代を担う女将軍

 

 

 

あらすじ

 朝廷から退いて二十年、西夏による侵犯の一報を受けた名将・楊家の佘太君は状況を知るため、孫の楊金花と楊文広を都へ行かせる。

 軍を率いる最高司令官を決めるために開かれた武技を競う試合で楊文広は勝利をおさめて印綬を授かる。金花と文広の母・穆桂英は佘太君の強い促しにより出征する。

 

 

解説

穆桂英(楊宗保の妻) 旦
佘太君(楊宗保の母) 老旦
楊宗保(穆桂英の夫) 老生または小生
楊金花(楊宗保と穆桂英の娘) 旦
楊文広(楊宗保と穆桂英の息子) 小生
宋王(皇帝) 老生
寇準(楊家と共に仕えていた老臣) 老生
楊洪(楊家の家臣) 丑
王強(国家簒奪を企む奸臣) 浄
王倫(王強の息子) 浄

 

第一場 報警

 西夏の番王が攻め入ってきたとの報告を受けた朝廷ではその対応策に意見が対立。

 金銀財宝を贈れば引っ込むでしょうと見くびった態度の大臣・王強。

 年々国力を蓄えてきた上での侵略であり直ちに出征しなければと危機感を募らせる老臣・寇準。軍を率いるのはかつて国への忠誠を尽くしてきた武勇の誉れ高い楊家の者たち以外に考えられないと進言する。

 今は亡き名将の楊業、その妻・佘太君が奸臣を厚遇する朝廷を辞してから二十年。とうの昔に退いた佘太君に何ができると反論する王強は、軍の最高司令官に自分の息子の王倫を推挙する。実のところ、親子ともども軍の実権を握り、西夏と通じて帝位を奪おうと企んでいた。

 寇準の提案により武芸の競技会における勝者に軍を統括する最高司令官を任命することとなり布告される。


第二場 郷居

 佘太君のもとに日課として武術の修錬を兼ねる狩りから戻ってきた孫の楊金花と楊文広が訪れる。
 そこへ金花と文広の父である楊宗保が西夏侵略の一報を伝えに来る。国家の危機にあたり状況を知るため、金花と文広が都に行くと名乗りをあげる。ふたりの母の穆桂英は難色を示すものの行かせることにする。

 

第三場 進京

 都に入った金花と文広はかつて楊家の住まい、天波府に赴く。そこで門官から思いがけず最高司令官を決める武芸の競技会が行われているの聞きつけて向かう。

 

第四場 比武

 王強の息子・王倫が大刀や弓の腕前を披露していたところ、金花と文広のふたりが現れて見事な武芸を繰り広げる。

 面白くない王強は強く大きい弓を持ってこさせる。それが祖父の楊業のものとみとめたふたりは敬意を払って難なく使いこなす。その姿に寇準は楊家の面影を見る。

 王倫と文広どちらが最高司令官になるかを決するため、ふたりは刀を振るいあうことになる。競技中に誤って殺しても罪には当たらないと嘯いて、王強は王倫へ文広を殺すよう暗に指示する。しかし王倫は文広に討たれてしまう。

 金花と文広は皇帝から軍の最高司令官の印綬を授けられる。ふたりが楊家ゆかりのものと知った皇帝はあらためて母の穆桂英を最高司令官、父の楊宗保を副官として出征するよう命じる。

 

第五場 接印

 心配する穆桂英のもとに帰ってきた金花と文広は嬉々として報告する。

 印綬をめぐって王倫を殺したことを誇らしげに言う文広。文広の態度に怒った穆桂英は文広を縛りあげる。

 その剣幕を見て金花はすかさず佘太君を連れてくる。

 穆桂英は文広を連れて都に行き印綬は返すと告げるが、かつて常に楊家のもとにあった印綬を目の当たりにした佘太君はしみじみと感慨に耽る。再び沸き起こる強い報国の志から穆桂英に一刻も早く出陣するよう促す。

 「そなたが行かぬのならわたしが行く!」と言う佘太君に心を動かされる穆桂英。

 穆桂英が印綬を手にしながら思い悩んだ末に決断を下す場面はみどころでありききどころ。決意に満ちて意気揚々とした表情が凛々しくカッコイイ。

「わたしが総帥にならねば誰がなる!わたしが兵を率いねば誰が率いる!軍装を整え印綬を携え、いざ軍を指揮せん!」

「捧印」印綬を捧げ持つ場面
我不挂帥誰挂帥(わたしが総帥にならねば誰がなるのか)

 

第六場 述旧

 金花と文広が軍装を整えて登場。起覇の動きがみどころ。

 ふたりの姿を見て父の宗保はかつて穆桂英が軍を率いて天門陣を破ったときのことを思い起こしてふたりに聞かせる。

 

第七場 聴点

 諸将と兵士たちが集って点呼を行う。

 

第八場 発兵

 軍を統括する最高司令官となった穆桂英。軍勢が揃い出陣の意気が上がる。

 さすが楊家の跡継ぎだと寇準に褒められた文広は王倫は自分の敵ではなかった、西夏王の首をいち早くあげてやると息巻く。

 「お黙りなさい」と穆桂英が嗜めるもやんちゃな言動がとまらない文広。

 穆桂英は「大胆な!」と一喝。軍規を乱すものは斬る、と毅然と言い放つ。

 実の息子、楊家の大事な跡継ぎを?!と慌てる宗保。

 軍を率いる厳しさを息子に諭すため、敢えて穆桂英が命令しているのを見越す寇準がその場をとりなす。

 それを受けて「軍規に情けはないと心得よ」と宝剣を半ば引き抜いて示す穆桂英に恭順する文広。

 そして佘太君の激励のもと、穆桂英たちは颯爽と出陣していくのであった。

 

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データ

 陸静岩、袁韵による豫劇(豫州:現在の河南省で生まれた演劇)の演目を改編。豫劇では馬金風が主演。

 建国十周年の記念公演で上演された梅蘭芳の晩年の代表作。

 

 こちらは2000年の資料映像で豫劇俳優の馬金風(当時78歳)と京劇俳優の梅葆玖(当時66歳)が共演。

 豫劇と京劇の節回しの違いを堪能できます。

 

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