2023/10/29更新
悲しみを乗り越えて
宋の名将・楊家の女たちの活躍劇
あらすじ
宋代。名将・楊家の佘太君のもとに国境を守っていた孫の楊宗保が西夏軍の伏兵に襲われ戦死したとの一報が入る。
講和を余儀なくされるかと思われる状況の中、佘太君は元帥となり楊家一族を中心に軍を率いて出征する。
天険の地にある敵陣を攻めあぐねていたところ、寡婦の穆桂英とその息子の楊文広たちが間道を探しあてて奇襲をかけ、みごと西夏の軍を打ち破る。
データ
範釣宏、呂瑞明により揚劇(江蘇省の揚州の芝居)《百歳掛帥》を改編。
佘太君(名将・楊家の長老) 老旦
穆桂英(余太君の孫・楊宗保の妻) 旦
楊文広(楊宗保と穆桂英の息子) 小生
柴郡主(楊宗保の母) 旦
楊七娘(楊七郎の妻) 旦
楊八姐(余太君の娘) 旦
楊九妹(余太君の娘) 旦
楊大娘・楊二娘・楊三娘・楊四娘・楊五娘・楊八娘(楊家の嫁) 旦
楊洪(楊家の執事) 丑
焦廷貴(焦賛の息子) 浄
孟懐源(孟良の息子) 浄
宋仁宗(宋朝皇帝) 老生
寇準(宋朝丞相) 老生
王文(西夏王) 浄
王翔(王文の息子) 丑
魏古(西夏の軍師) 老生
張彪(楊宗保の馬童) 武生
採薬老人(辺境の百姓) 老生
ポイント
老いも若きも強く美しい楊家の女たちが鎧を身に纏って勢揃いするのは圧巻。
威厳に満ちた佘太君は格好よく、穆桂英らが悲しみを乗り越えて立ち向かっていく勇ましい姿にわくわくさせられる芝居。
解説
めでたい雰囲気でいっぱいの楊家の住まい天波府。名将・楊家の佘太君は満百歳、その孫の楊宗保は五十歳、その祝いの宴の準備をしている。
楊宋保の妻の穆桂英と母の柴郡主ふたりのもとへ、楊宋保と共に国境を守っていた孟懐源と焦廷貴のふたりが駆けつける。
国境を侵してきた西夏の伏兵から受けた矢傷がもとで楊宗保が亡くなったとのこと。突然の訃報に驚き悲しむ穆桂英と柴郡主。
そこへ佘太君が登場。ふたりはひとまず平静を取り繕って迎える。
柴郡主の楊家との関わりはこちら
楊家四代の面々が勢揃い。武芸の鍛錬から戻った楊七娘と楊文広も加わり、ますます喜びがあふれる佘太君。「寿」の文字を象った赤い糸細工の簪を皆それぞれ手に取り髪に刺す。
孟懐源と焦廷貴のふたりが挨拶をする。
「酔っぱらって寝ちゃっても大丈夫。わたしが責任持つから!」
楊七娘からお酒を勧められるもふたりは戸惑いたどたどしい動き。
穆桂英は楊文広に酒を勧められるが、一杯だけで具合が悪いと早々に下がる。
穆桂英はどうしたのか?辺境を守る孟懐源と焦廷貴のふたりがなぜここに?何かあったのではないのか?佘太君に問われて柴郡主はとうとう楊宗保の死を伝える。
さきほどまでのめでたい祝いの席は一転。悲しみに暮れる楊家の者たちは奮起して出征しようと声を揃える。
朝廷では講和を推す兵部尚書の王輝と直ちに出征すべきと奏上する丞相の寇準で意見が対立。楊宗保を失ったいま、新たに元帥となって軍を率いていくと名乗りを上げるものがいない。
「講和するしかないのか」
「致し方ありません」
憂う皇帝に答える王輝。
「お待ちください!敵を打ち破るものたちがおります」
寇準がすかさず意見する。
「どこの家の者か?」
「それこそは楊門女将!」
武勇を誇る楊家一門、その女将たちがいる!
「楊家は宗主を失ったばかりではないか。老いたものと幼いものだけで担えるものなどいるものか。佘太君はわしより三十も年上。穆桂英も天門陣を破った頃の力があるのかどうか…」
王輝の消極的な見解も一理あるのか、まずは天波府へ焼香に赴き佘太君に会って意見を求めることにする。
挨拶を済ませた後、講和は不本意ではあるが如何せん軍を率いる将軍がいないと佘太君に本音を漏らす皇帝。
「わたくしが元帥になります!」
佘太君の鬼気迫る決意に圧されて皇帝は認める。
しかし先鋒がいないではないか、という王輝の前に喪服に身を包んだ穆桂英が颯爽と登場。
かつて元帥となって軍を率いたこの自分が先鋒となる!穆桂英が言い放つ。
「楊家の女将の活躍はとうの昔のことではないですか。敢えて出征しなくてもよかろうに」
「国の安寧こそが大事!かたき討ちなぞ国家の大事の前には些細なことではないですか」
王輝の(過剰に煽っているとしか思えない一連の)言葉に高らかな笑い声をあげる佘太君。
聞き捨てならないと楊家の女たちが勢揃い。皇帝に挨拶をして意気の高さを見せる。佘太君らが西夏軍に勝つことができるならば烏沙帽を脱いで官職を辞すと王輝は返す。
明日にでも出征すると決意を固める佘太君と楊家の女将たち。
楊文広は強く出征を望むも、楊家の大事な跡取りとして祖母の柴郡主と母の穆桂英は気が進まない。母子で手合わせさせて見極めると佘太君は提案する。
穆桂英が元帥となって軍を率いる話はこちら
佘太君が見守る中、穆桂英と楊文広の母子が槍を戦わせる。
昔取った杵柄、穆桂英は調子をあげていくと共に息子の成長を実感する。槍を交わす中、どうしても父の仇を討ちたいと文広にささやかれた穆桂英は勝ちを譲る。
柴郡主は不本意ながら佘太君は理解を示して文広の出征を許す。
「わたくしが自ら伝授した梅花槍をよく用いたからですわ」
と得意げな楊七娘は穆桂英の副官として任命される。
百歳の身で元帥を拝命して辺境へ、意気揚々の楊家の女将たちを率いて佘太君は出征する。
「宋はよっぽど人材がいないのだな。おんなこどもしかおらんのか」
西夏王は佘太君と対峙して国境を明け渡すよう迫るが返り討ちに遭う。
しかし軍師の魏古は天然の要塞に囲まれた自陣は難攻不落、一か月もすれば兵糧がなくなるだろうと余裕を見せる。
穆桂英たちは高い山々に囲まれる中に間道があり、楊宋保も探っていたことを知る。楊宗保が乗っていた白龍馬を率いていた馬童の張彪と共にそれを見つけようと試みる。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず!夫が見つけられたのであれば必ずやわたくしどもも見つけます!」
谷に入り何が何でも天険の間道を探り当て必ずや敵陣に奇襲をかける、ここでの佘太君と穆桂英の台詞のやりとりがリズミカルで勇ましい。
谷を探っていく[高抜子倒板]風蕭蕭霧漫漫星光惨淡 から始まるこの場面はみどころでありききどころ。
道も途絶えた絶壁に霧が出てきて視界も遮られる。
張彪は薬草を採って生計を立てている老人に出会って案内されたのを思い出す。
楊七娘はひとりの老人を見つけて問いかけるが、老人は耳が聴こえず話せない素振りを見せる。しかし、穆桂英らが楊家のものだと聞いて思わず声をあげる。
老人は国に忠節を尽くしてきた楊家のためと間道へと案内する。この老人を演じる老生の役者によっては歩く動きの技を堪能できるこの場面もみどころ。
一方、余太君らの陣営。西夏軍に攻められている。
「ああ、もうだめだ」
王輝が絶望の声をあげたそのとき、敵陣から火の手が上がる。
穆桂英たちによって奇襲をかけられた西夏軍は完敗。
「西夏の人馬は全て打ち破りました。王大人、われら楊家の女将はいかがかな?」
「ああ夫人の各々方!なんと素晴らしいことか!」
賛辞を送る王輝に笑いながら烏沙帽を外すよう促す寇準。
「さあ、凱旋じゃ!」
佘太君の号令により皆意気揚々と帰路につくのであった。
鑑賞
英語字幕つきで美しい映像を堪能できる戯曲映画版です。
制作は中国国家京劇院。
中国では葬祭の色は白。白を基調とした衣装を纏う李勝素の安定したうたの力と美しさ。動きも魅せます。
皇帝役の助演で芝居に重みを与えている于魁智。
馬派老生の飄々とした味を発揮する朱強の存在感。
張静の威厳と凛々しさが溢れる老旦の演技をどうぞ。
京劇《楊門女将》戯曲映画版 2時間20分
穆桂英:李勝素
宋仁宗:于魁智
寇準:朱強(北京京劇院)
佘太君:張静
柴郡主:王芳
王輝:陳国森
王文:劉魁魁
楊文広:宋奕萱
楊七娘:潘月嬌
採薬老人:馬翔飛
焦廷貴:胡濱
孟懐遠:危佳慶
張彪:王好強
魏古:沈京麟
王翔:徐明遠
八姐:呂耀瑶
九妹:畢璐娜
楊洪:王珏
15:22 佘太君 登場
38:26 朝廷
47:13 天波府
54:45 穆桂英 再登場
1:11:10 校場にて母子手合わせ
1:25:11 西夏軍と遭遇
1:49:45 探谷
2:01:35 薬採老人との出会い
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