中国京劇雑記帳

京劇 すごく面白い

京劇演目紹介《鎖麟嚢》

2023/06/24更新

 

情けは人の為ならず

ききどころみどころたっぷり 程派の代表作

 

 

あらすじ

 登州の資産家の娘である薛湘霊は嫁入りの日、花轎(婚礼で飾り立てられた新婦を乗せる輿)に乗って行く途中、突然の雨に見舞われて春秋亭で雨宿りをすることになる。

 同じように雨を避ける質素な花轎があり、そこには貧しさと嫁入りにお金を貸してくれない世間の冷たさを嘆く趙守貞が乗っていた。気の毒に思った薛湘霊は、珍宝がたくさん入った鎖麟嚢を渡す。鎖麟嚢とは嫁入りに持っていくと子宝が授かるというこの地方に伝わる縁起もので、母が嫁入りに持たせてくれたもののひとつであった。雨が止むと薛湘霊は名を告げずに春秋亭を去る。

 六年後、薛湘霊は子供が生まれ幸せに暮らしていたが、洪水が起きて一家離散してしまう。寄る辺ない薛湘霊は、その土地の有力者である盧家の保母になる。

 蘆家の子供の遊び相手をしていると、蘆夫人から入ってはいけないと言われていた蔵の中へ子供が球を投げ入れてしまう。子供にねだられてやむを得ず蔵に入ると、自分の嫁入りのときに持っていった鎖麟嚢を見つける。

 盧夫人は鎖麟嚢をあげた趙守貞であった。自分の大恩人であることを知った趙守貞は薛湘霊の家族を迎えてめでたく一家団欒となる。

 

 

ポイント

 《春秋亭》でうたわれる[西皮二六」[西皮流水]は特に有名。

 薛湘霊が被災後、保母になって自分の子を思い出してうたう[二黄慢板][快三眼」もききどころ。

 蔵で球を探す場面の「水袖」使いがみどころ。

 四大名旦のひとり程硯秋の代表作。

 

春秋亭のシーンはききどころ

 

解説

  お金持ちで苦労を知らずに育ってきたお嬢様の薛湘霊。召使たちの揃える嫁入り道具がなかなか気に入らない。召使たちはとっかえひっかえ持って来ておおわらわ。

 召使のひとりが持ってきた鞋を小間使いの梅香が奥にいる薛湘霊のもとへ持っていくが、気に入られず鞋を手に戻ってくる。

「とにかくお嬢様が気に入らないからはやく取り替えてきて」

伝える梅香に奥から呼ぶ薜湘霊の声。

「刺繍は一対の鴛鴦で水遊びしているのをお願いね」

「はい。鴛鴦が水遊び、ですね」

「まって」

「はい」

「一羽は飛び、一羽は水と戯れているのがいいわ。鴛鴦は小さすぎず大きすぎず」

「大きすぎず小さすぎず、はいわかりました」

「まって」

「はあい、ここから動いてませんよ」

梅香は行こうとする度に声で引き留められる。

「鴛鴦は五色使いで色とりどりの羽、澄んだ水面ね。鞋先は刺繍しないで。歩くときに擦らないために」

「擦らないためですね、はいはい」

「まって。ちょっとまって」

「はあい、ここにいますよお」

「背景は絵になるように、赤い蓮の花で引き立てるといいわ。花芯は金色の糸で、花びらは朱色でね」

「花芯は金色の糸で花びらは朱色…と。お嬢様、覚えきれませんよ。いっそご自分で申し付けてください」

「あなたは役立たずねえ」

ここで薛湘霊の登場。

 鴛鴦は雌雄が常に一緒にいることから仲むつまじい夫婦に例えられる。蓮の実は中国語では「蓮子」。「蓮」と「連」(つらなる)が同音で、子供が次々と生まれる例え。蓮の花と蓮の実で「蓮生貴子」と言う意味で、鴛鴦が加わって「鴛鴦貴子」、夫婦仲良く子孫繁栄といういずれも縁起のいいものである。

 さて、ご機嫌斜めの薛湘霊。

 上等の絹のハンカチを持って来れば

「真っ白なんて縁起の悪い、そんなこともわからないの?」

と不機嫌に投げ捨てる。とにかくわがままお嬢様だが、これが後の展開と鮮やかな対比を見せていく。

 胡婆が持ってきた花を挿した花瓶は、見てにっこり。気に入られて胸を撫で下ろした胡婆は「南無阿弥陀仏」とつぶやいて去る。

 長年仕えている薛良が持ってきたのは鎖麟嚢。以前、薛湘霊の母に言われて鎖麟嚢を用意したが刺繍が気に入らないと言われて取り替えてきた。受け取った梅香は、取り替えてきた品の数々を見せ、最後に鎖麟嚢を見せる。

「まるで馬みたい。誰が持ってきたの?早く取り替えてきなさい」

とまた怒る。

 薛良が困っているところに、母の薛夫人が娘の様子をみにやってくる。薛夫人のとりなしで気を変えた薛湘霊は、褒美として薛良に銀を与える。子孫繁栄を願って薛夫人は珍宝を見せながら次々と鎖麟嚢に入れていく。その相手を梅香にまかせて薛湘霊は部屋にもどる。

 

 一方、場面変わって貧困にあえぐ趙家。

 趙禄寒は明日、娘が嫁ぐと言うのに嫁入り道具も揃えられず、お金を貸してくれる人もなく、すでにこの世に無い妻に申し訳なく思っている。娘の趙守貞は、そんな父を慰めて花轎に乗る。

 

 薛湘霊が婚家へ輿に乗って行く道中は、銅鑼は盛大に鳴り響き、召使を従えて嫁入り道具に祝いの品を運ぶのにすごい行列。一方、趙守貞の乗る輿は質素で、盛大に叩いてもし銅鑼が壊れたら弁償できるのかと言って銅鑼たたきの男も叩き控えをする始末。

 雲行きがどんどん怪しくなっていき、とうとう雨が降り出した。薛湘霊たちは春秋亭というあずまやに雨宿りをする。趙守貞たちも雨を避けて春秋亭にやって来る。

 

 

 《春秋亭》の場面はこの芝居のききどころ。

 舞台向かって右側に薛湘霊の輿。輿は左右ふたりに支えられ、豪華な刺繍の入った布がカーテン状になっている。

 左側は趙守貞の輿。模様が入ってない赤いだけの布でひとりが支えている。

「んまあ!なんて小さい輿なのかしら。んまあ!なんてみすぼらしいの。んまあ!」

 騒々しい梅香に怒る父をなだめながら趙守貞は、悲しさをこらえきれずに泣き声をあげてうたう。

「泣き出したりしてもういやあねえ」

梅香は空を見上げて花の中の薛湘霊に話し掛ける。

「お嬢様、雨がますます強くなってきました」

輿の布がゆっくりと開かれる。

 

鑑賞(1)

CCTV戯曲

中国京剧像音像集萃《鎖麟嚢》前半

張火丁

春秋亭の場面からですがもちろん最初から全部ご覧ください!

youtu.be

 

薛湘霊   春秋亭の外は突然の雨 どこからか悲しみの声が寂寥を破る

      簾を隔て目にするのは花嫁の乗る輿がひとつ

      新婚で鵲が作る橋を渡っていくのね

      吉日の喜びに嬉々としているはずなのに

      なぜ鮫珠と化すように涙を流しているのかしら

      ああ わかったわ この世は豊かさを味わうばかりであろうはずなく

      飢えや貧しさ 悲しみを抱えることもあれば

      不遇をかこち 傷ついて泣き叫ぶこともある

      輿の中のひともそのひとなりの事情があって

      きっと口にすることができない悩みがあるのね

 

 一節うたい上げて布は閉められる。

 今度は趙守貞の輿の布が開かれ、父が笑われてバツが悪い思いをするのをさらに悲しく思ってうたい、泣き声をあげながら再び閉じられる。

 「また泣き出しましたよ。お嬢様」

 布が開かれる。ここからははやいテンポでうたわれていく。まさに「好聴」のききどころ。

 

薛湘霊   聞こえくる悲痛な声は心をかき乱す

      同じく道行く人はなぜこうも嘆くのかしら

      もしかしたら夫になる人が不細工で不釣合いなのかしら

      もしかしたら無理やり結婚させられるのかしら

      梅香 丁寧に声をかけて

      なぜ痛々しく泣いているのか訊ねていらっしゃい

「お嬢様、私たちは私たちで雨宿り、あの人たちはあの人たちで雨宿り、雨が止んで晴れたら私たちは私たちで行くのだし、あの人が泣いているのは関係ないですよ~」という梅香。

薛相霊   梅香あなたはただ乱りに茶化すことしかできないの

      貧しさを憐れみ 困っている人を助けることは人の道

      手をこまねいて見ているだけなんて

 

 梅香は仕方なく聞きに行くが、その生意気な態度に趙禄寒はほっといてくれと突っぱねる。

「お嬢様、聞いても答えませんよ」戻って来て報告する梅香。

薛相霊   もう あなたの聞き方が良くないのよ

      気を悪くするのは当たり前

      傲慢にしてはだめ 余計なことを言わず

      騒がないでそこにいなさい

      薛良 あなたが行って聞いてきて

 

 薛良が丁寧に礼をして尋ねて事情を聞く。

 「お嬢様、聞くところによりますと姓は趙、輿の中はこの方の娘さんだそうです。家が貧しいために泣いておられるようです」と報告する薛良。

「結局は貧乏のせいってわけね。うちのお嬢様の輿入れ道具、そう、鎖麟嚢ひとつで一生暮らしていけるわ」

梅香のことばを聞いて薛相霊は顔を輝かせる。

 いいときに人は好意を寄せてくるが、わるいときは無関心で取り合ってくれない…人情は移ろいやすいもの。自身が甘やかされている気づきを以て鎖麟嚢を分け与えようと心に決める。

 彼女の半生、鳳凰の巣を安んじましょう。急いで梅香を呼びましょう…鎖麟嚢を取り出し、梅香に渡す。なんてもったいない…梅香は面白くない。薛相霊ははやく行きなさい、と梅香を急き立てる。ここは動きだけで会話はない。相変わらず軽快な音楽が流れている。

 しぶしぶ渡しに行こうとする梅香を「待って」と呼び戻す。思いとどまったのかと梅香が喜んで振り返ると「わたしの名は出さでね」とうたう薛相霊。

「お嬢様。お嬢様がこれを差し上げるっておっしゃるなら私は構いませんわ。でもこの鎖麟嚢は奥様がお嬢様に差し上げたものです。それは早く孫を抱きたいという意味ではございませんか?」

薛相霊は微笑んでうたう。

 

薛相霊   すべては神話で架空のもの 宝石は裕福さを誇るもの

      子どもは神様が授けてくださるもの

      美しい苗木が生えるのは徳を積むからこそ

      小さい嚢ひとつが何だというの

      彼女が助かるならこんないいことはないでしょう

 

 ここで輿の布が閉じられるとともに唱が終わる。

 梅香は偉そうに鎖麟嚢を渡そうとするが、趙禄寒は受け取らない。しかたないので薛良に渡す。薛良の礼儀深い態度に鎖麟嚢を受け取った趙禄寒は喜んで娘に知らせる。趙守貞は恩人の名前を聞いてくれるように父に言う。

「そちらのお嬢様のお名前は?」

「お嬢様の姓は薛…」

梅香が言いかけたところですかさずすかさず

「梅香!」

と輿の中から一声。恩に報いてもらうためではないからと薛相霊の一行は名を告げずに春秋亭をあとにするのであった。

 趙禄寒の一行も出発。趙禄寒は銅鑼たたきの男にもっと盛大に叩けと言う。

「金があるのか?」

「ああ、鎖麟嚢がある!」

「よし!わかった!…ほんとに金があるのか?」

「全く意地汚いやつだ」

こうして趙守貞の輿も春秋亭を去るのであった。

 

 

 薛相霊は輿入れし、祝いに駆けつけた人々は集まって世間話に花を咲かせる。

「お金持ちはいつまでたってもお金持ちさ」

「いつ落ちぶれるかわかんないぜ」

 地位や財力によって差別する人という意味の『勢利眼』はお前だお前だと言い争っていると、傍らで聞いていた薛良が

「お前さんたちみんなそうだよ」

と言って下がる。

 

 六年後、薛相霊には五歳の子供・周大器がいる。

 子供を連れて里帰りをするところである。行きたくないと駄々をこねる大器。

「ママ、馬が欲しい。緑色の馬ね!ねえ、いるでしょ?!」

 大器の可愛さに緑色の馬はいると答える薛相霊。車に乗って家路を急いでいると俄かに雲行きが怪しくなってきた。

 武場のリズムが早くなり「圓場」の速度を上げていく。人々が逃げ惑い、皆バラバラになる。薛相霊の母、夫の周庭訓はそれぞれ救済船に乗って助かっていたが、薛相霊はどこに行ってしまったのか…。

 

 かつて薛家に仕えていた胡婆が登場。

 輿入れのときに花を持ってきて幸いにして気に入られた胡婆である。胡婆も洪水から逃れて莱州まで逃げ延びてきた。そこで思いがけず薛相霊に出会う。

 

 薛相霊が「苦哇!」と幕内で叫んで登場してうたう[西皮哭頭]はききどころ。

 

「お嬢様、お腹がすきませんか?」

「そうね、それじゃ用意してちょうだい」

 やはりお嬢様育ち。いつもような食事ができるわけがない。この土地の富豪・蘆家がお粥を配給しているのを胡婆は渡す。しかし、老婆が来たところでお粥がなくなったのを見て哀れに思った薛相霊は自分のお粥をその老婆に渡す。

 胡婆は薛相霊を心配してお粥を配給していた蘆家の者に相談して保母の仕事を紹介してもらう。

「食べ物には困りませんよ」

「そんなにいいところならあなたが行きなさい」

と旋毛を曲げる薛相霊。お嬢様然としているが本当は心細い。薛相霊は泣きながら胡婆と別れを告げて蘆家に行く。

 

 こちらは蘆家。なんという偶然か。蘆夫人はあの春秋亭で鎖麟嚢をもらった趙守貞であった。しかしお互いそれはわからない。相霊は蘆家の子供・麟児の保母となる。

 趙守貞は薛相霊に麟児の相手をするのにいろいろと注文をつけるのだが、最後にどこで遊んでもいいが東にある朱楼には行ってはいけないと告げる。薛相霊はそれを肝に銘じて蘆家の小間使いの碧玉に連れられて麟児と花園に行く。

 ここで出てくる蘆家の小間使い・碧玉はたいてい「彩旦」。男性が演じており意地悪なところがコミカル。

 さっそく薛相霊と遊ぼうとする麟児は今までのおもちゃは飽きたといって投げ出し、何か新しい遊びはないかと聞く。薛相霊は切り絵をして、赤い紙に人の形を切り取る。

「うわあ、面白い!次は馬を切ってよ」

「わかりました」

「ああ、僕ねえ…緑色の馬がいい!」

緑色の馬…自分の子を思い出す薛相霊。悲しみがふと込み上げるが、麟児に急かされて緑色の馬を切り上げる。

「これ走らないの?」

「紙の馬がどうやって走れるというのです」

「ふうん、走れないんだ。僕はできるよ。見てて」

麟児が四つん這いになって動き回るのを慌てて止める。

「服が汚れます」

「いいんだ。また新しいの買ってもらうから。さあ今度は薛ママの番」

「人は人、馬は馬、人が馬の真似事なんてする道理がありますか」

取り合わない薛相霊に麟児は怒る。

「やらないの?もう!じゃあお母さまに言うよ!」

慌てて止める薛相霊。ここで「曲牌」が流れて雰囲気が盛り上がる。仕方なくやってみるが、全然できてないと言って不満な麟児。

「馬には鞭がないといけませんわ」

「鞭ならここにあるよ!」

といって麟児は鞭を振り回す。困った薛相霊はふと遠方を見る。

「あ!蝶ですわ!」

「え!チョウチョ!どこどこ?」

「ああ、飛んでいってしまったわ」

「ええ?僕、チョウチョが欲しいよお!」

「私が切って差し上げますわ」

「早くしてね、早くね…」

薛相霊が蝶を切り終わった頃には麟児は眠ってしまっていた。そこで再び悲しみが込み上げてくる薛相霊。ここの[二黄慢板][快三眼]はききどころ。

 

鑑賞(2)

CCTV戯曲

中国京剧像音像集萃《鎖麟嚢》後半

張火丁

花園の場面から見られますがもちろん全部ご覧ください!

youtu.be

 

 薛相霊が悲しんで泣いているところに麟児が起き出す。

「ねえ、遊ぼうよ」

と言っても涙を拭う一方の薛相霊に

「遊んでくれないってお母さまに言うよ」

とまた旋毛を曲げる麟児。

 薛相霊は行こうとする麟児をあわてて引き止めて一緒に遊ぶ提案をする。

「花園に鳥を捕まえに行きましょう」

と二人は歩き出す。

「僕、赤いのがいいな。緑のと、黄色と、白のも!」

麟児は道端に落ちていたボールを見止める。

「あ、ボールだ!見てて」

「気をつけてください」

ボールをついて遊ぶ麟児。その後について見守る薛相霊。その大きくグネグネと小刻みに歩いて回るその足取りは見事。ここはみどころ。

「よーし、投げるよ」

勢いよく投げたのはいいが方向が悪かった。

「あ、朱楼の方に行っちゃった。ねえ薜ママ、探しに行ってよ」

蘆夫人からどこに行ってもいいが、朱楼だけは行ってはいけない…あれほど念を押されたこともあって薛相霊は困る。急きたてられて階段を上ろうとするが、やはり躊躇う薛相霊。

「もし見つかったら奥様に怒られてしまいます」

「僕がいいって言ったんだからいいんだよ。行って」

薛相霊は覚悟を決めて、麟児の方に何度も振り返りながら階段を上っていく。

 

 さあ、階段を上った。ボールはどこ?見つからない…このボールを捜しているシーンでは水袖の美しい動きのみどころ。

 そこで思いがけないものを見つける。壁に飾られているのは…鎖麟嚢?!思わずそれを手にして泣き出す薛相霊にビックリした麟児は慌てて母を呼びに行く。

 

 蘆夫人がやってきて怒り出す。しかし、どうも何か事情があるようだと思った蘆夫人は話を聞こうとすると、さきほどから薛相霊が後ろを振り返って何かを見ている。

「あなたはさっきから何を見ているの?」

「鎖麟嚢です」

「何ですって?」

「鎖麟嚢!」

驚く蘆夫人。

「いらっしゃい!」

 

 蘆夫人は事情を話すように促す。これにじっくりと唱で答えていく薛相霊。ここはききどころ。

 最初は下座にいた薛相霊。出身や婚礼当日の話を聞くに連れ、確信を増す蘆夫人。召使いの碧玉に命じて、薛相霊が座る椅子をどんどん上座の方へ移していく。何のことやらわからない碧玉は新参者に対する主人の不可解な対応に不満気味。

 いやいや椅子を上座に移すも、蘆夫人の強い勧めで薛相霊が恐る恐る座ろうとするや否や「エヘン!!」と咳払い。それに驚いて薛相霊は後ずさりしてしまう。「気にしないで座りなさいよ」と気をよく声をかける碧玉。客席から思わず笑いが漏れるところ。

 蘆夫人は薛相霊こそが大恩人であることを知って、自分の持っている服の中でも一番上等のものに着替えさせるように碧玉に命じる。碧玉も当の薛相霊もなんのことやらさっぱりわからないものの二人とも下がる。

 そこへ薛相霊の家族たちが訪れて来る。

 きれいに着飾った薛相霊は母、子供、夫と次々に再会する。お互いの無事を喜ぶが、夫は災害で大変な目に会っている中で上等のものを身に付けている薛相霊を訝しく思う。

「ひょっとして?!」薛相霊が愛人になったと嘆いて怒り出す。

 それを見ていた蘆夫人は薛相霊が鎖麟嚢をくれた恩人であることを明かす。こうして誤解は解けて、家族皆無事に再会。薛相霊と趙守貞は姉、妹と呼び合って礼を交わす。

 めでたしめでたし。

 

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