包拯ついに登場
李妃は無念を晴らすことができるのか…堂々完結
全三話。第二話からの続きです。改編されているところがありますが、1998年上演当時の内容を記しています。
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あらすじ
十一年後、皇太子は即位。皇帝となって自ら執政していた。劉妃は皇帝の母として劉太后となっている。
元宵節。提灯を飾り国を挙げて盛大に祝っている中、みすぼらしい老婆が皇帝の名呼んで我が子だと泣き叫んでいた。それは貧しい逃亡生活を強いられ、盲目になってしまった李妃であった。
不敬罪で李妃は開封府に送られ尋問されることになる。劉太后は腹心の郭槐に担当官へ賄賂を贈らせてもみ消しをたくらむ。しかしその担当官とは鉄面無私で名高い清官・包拯。賄賂は突き返される。
李妃の素性を知らないまま母と慕い共に貧しい暮らしを送ってきた孤児の範仲華は開封府を訪れて恩赦を求める。提灯見物をしていただけ、世迷言だったと言う李妃に、目が見えないことを指摘して矛盾を突く包拯。
担当官が清廉潔白な官吏として名高い包拯と知り、信用した李妃はかつて皇帝から賜った金珠を見せて后妃であることを明かす。そして宮中の陰謀によって今に至ったいきさつを話す。包拯は事の重大さを認識して慎重に捜査を開始する。
劉太后は先を制して陳琳を召し出し、表向きは労わってわざわざ取り寄せたという薬湯を飲むよう勧める。毒が入っていると懸念した陳琳は丁寧に辞退するが、それを劉太后が飲み干す。劉太后は再び薬湯を持ってこさせて勧める。またそれを辞退すると今度は劉太后の腹心・郭槐が飲み干す。さらにもう一杯…それこそに毒が入っていることを陳琳は確信するが、押さえつけられて無理やり飲まされてしまう。
陳琳が劉太后に召し出されたと聞いて不安に思った八賢王・趙徳芳が急いで駆けつけるが時すでに遅し。陳琳は毒がまわって八賢王の目の前で息絶える。責める八賢王に先帝の「後事はすべて劉太后に託す」という遺言を見せて、劉太后は高らかに笑うのであった。
一方、李妃は包拯のもとで心身ともに養生して視力も回復していた。しかし、かなり時間がたっている上に宮中のことなので包拯の捜査は手詰まりになっていた。
そこへ娘がひとり、包拯を訪ねてくる。その場にいた李妃は娘を見て愕然とする。李妃と皇太子を守るために命を落とした寇珠。うりふたつのその娘は寇珠の妹・寇玉であった。
陳琳がすべての真相を記したものを寇玉は密かに託されていた。陳琳の血でしたためられた告発状を証拠として寇玉は包拯に差し出す。
そのとき、包拯のもとへ宮殿からの意向を伝えにきた劉太后の腹心・郭槐が訪ねてくる。包拯はさらなる証拠固めのために一計を案じる。
包拯が開いた宴でもてなされた郭槐は酒を飲んで酔っ払っていた。包拯の部下・包興に部屋を案内されるが、変に騒がしくなにやら不気味な様子。包拯はあの世でも有能さを買われて裁判をするため、夜中はあの世との行き来が激しいからだと聞かされる。何かと後ろ暗い郭槐は気を弱くする。
夜中、郭槐は突然どこからか狸猫(ヤマネコ)の鳴き声を聞いて身を縮める。さらに暗闇から寇珠の亡霊が踊り出て郭槐を責め立てる。気が狂わんばかりに恐れおののく郭槐。いつのまにか来てしまったらしいあの世の閻魔大王の裁判で、皇太子殺しの陰謀に荷担したことを認めて訴状に署名をする。
その途端、火がともされて周りが明るくなる。ここはあの世ではなく開封府、閻魔だと思っていたその人は包拯、寇珠の亡霊だと思っていたのは妹の寇玉であった。郭槐は自分の迷信深さにいらだち、だまされたと知るも後の祭りで牢に入れられる。
証拠を携えて包拯は八賢王と李妃とともに宮殿を訪れて皇帝・趙禎に謁見する。
皇帝は皇太子の頃に出会っていた李妃を覚えていた。李妃から真実を聞かされるが、皇帝は今まで母として接してきた劉太后を思うとなかなか信じられない。さらに八賢王が証言して、包拯が証拠を立て続けに示す。皇帝は自分を巡って多くの犠牲があったことを思い知る。
李妃は晴れて宮殿に迎えられ、すべてが露見したことを知った劉太后は自尽する。
解説
第三話では京劇《遇皇后》《打龍袍》の部分にあたります。この芝居では包拯と李妃の唱が中心の芝居です。
《遇皇后》は、包拯が李妃に遭遇して数奇な運命による冤罪を訴えを聞くというもの。《打龍袍》は、知らなかったとはいえ不孝の罪があるとして皇帝を裁くよう李妃から包拯は命じられます。皇帝を裁くのは臣下の身として進退窮まる包拯でしたが、皇帝の象徴であり皇帝のみが身に纏うことができる五つ爪の龍の刺繍が施された黄色の衣服「龍袍」を棒で打つことで罰した話です。
先代の皇帝・趙恒を演じていた唐元才が満を持して包拯を演じています。裘派の台詞回しや唱声を聴かせてくれます。
あの世での裁判「陰審」の場面。照明が落とされた薄暗い闇の中に青白い光が照らされて冠玉が水袖を振るって責め立てる、一転明るくなる場面転換は目を見張ります。上演当時は第一話で寇珠を演じていた史依弘(史敏)が第三話で妹の寇玉として再登場。ここでも華麗な動きを見せてくれます。
第二話で登場する孤児の範仲華は常に李妃を母として慕っており、宮殿に迎えられた後の李妃も変わることなく範仲華を慈しんでいる何気ないところは、血のつながりがなくとも身分が違っても親子として思いあう姿に心が温かくなります。
観劇データ
※1998年当時の内容をそのまま記してあります
「’98長安・天蟾京劇月」
新編京劇連台本戯《狸猫換太子》第三本
1998年12月29日(火)19時30分 北京・長安大戯院
上海京劇院
編劇:黎中城 劉夢徳 程惟湘 董紹瑜
導演:李家耀(特邀) 董紹瑜
芸術顧問:王正屏
副導演:陳金山 于永華
表演指導:李春城(特邀)
唱腔設計:金国賢 李寿成
作曲配器:金楽華
打撃楽設計:李朝貴 金正明
布景設計:徐福徳
灯光設計:孫新華
服装・造型設計:翁麗君
旁白配音:陳醇
楽隊指揮:金楽華
鼓師:李朝貴 金正明
琴師:李寿成 範文碩 胡雅斌
舞台監督:高韵洪
劇務:倪順福
キャスト
包拯:唐元才
李妃:胡璇
陳琳:陳少雲
寇玉:史敏 劉佳
趙禎:李春
郭槐:張達発 任広平
劉太后:陸義萍
八賢王:徐建忠
範仲華:虞偉
包興:金錫華
寧総管:童航
郭安:奚維堂
王朝:任広平
馬漢:張志清
張龍:成琳
趙虎:周春光
鑑賞
新編京劇《狸猫換太子》下集(2時間27分49秒)
包拯:唐元才
李妃:胡璇
劉太后:熊明霞
陳琳:陳少雲
寇玉:高紅梅
趙徳芳:徐建忠
郭槐:任広平
趙禎:金喜全
範仲華:羅家康
包興:虞偉
寧総管:厳慶谷
郭安:李秋明
王朝:董洪松
馬漢:朱浩忠
張龍:斉宝玉
趙虎:王楠楠
司鼓:金正明
操琴:陳正偉
9:45 開封府
45:09 陳琳 登場
1:17:15 寇玉 登場
1:51:53 皇帝 登場
後半、1998年当時は京劇《遇皇后》《打龍袍》を踏襲するところがありましたが更に改良、改編されています。
劉太后が包拯に任せられないとして宮殿に場を移して審議することになり、鎖につながれた包拯と郭槐が共に宮殿に入って訴えます。
皇帝の目前で包拯はひとつひとつ証拠を示し証言の矛盾を突いて積み上げていき、真実が白日の下に晒されます。
よりリアルで劇的になっています。
最後に陳琳、寇珠、秦鳳と第一話の元気な姿で登場して皆勢ぞろいするところは同じ。長い物語で報われたエンディングを迎えたことで胸が熱くなります。
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