2024/04/27更新
京劇の「唱」の競演といえば《大保国》《探皇陵》《二進宮》、またの名を《龍鳳閣》というお芝居。二回に分けてご紹介しています。
今回は後編の《探皇陵》と《二進宮》です。
《二進宮》は行当(役柄)が異なる三人が被せあうように唱が繰り出されるのがききどころで圧巻です。
前編はこちら
《探皇陵》
あらすじ
李艶妃への諫言が聞き入れられず追放された楊波は皇陵を訪れ、徐延昭と再会する。同じように国を憂うふたりは李艶妃へ再び奏上することにする。
徐延昭(定国公)浄
楊波(兵部尚書)老生
楊大郎(楊波の息子)老生
馬芳(楊波の義理の息子)老生
楊世祥(楊波の息子)浄
趙飛(楊波の義理の息子)丑
楊公子(楊波の息子)小生
解説
国のことを憂うあまり楊波は髯が真っ白になっている。皇陵の護衛の為に兵を率いて息子たちと共に向かう。
皇陵には元勲・徐延昭が訪れていた。幼い太子に代わって実父に執政を委ねようとする李艶妃に諫言して追放された経緯をうたいあげるところはききどころ。
再会した楊波と徐延昭。楊波の四人の息子たちは次々に徐延昭に挨拶をする。
楊大郎は劉備、赤面長髯の馬芳は関羽、色黒の楊世祥は張飛、楊公子は趙雲と三国志の英雄たちになぞらえて称える徐延昭。
兵を擁してさっそく楊波らと徐延昭は宮殿へ向かうことにする。
《二進宮》
あらすじ
実父の李良によって幽閉されて後悔する李艶妃は、改めて楊波と徐延昭のふたりに幼い太子と国事を託す。
徐延昭(定国公)浄
李艶妃(太后)旦
楊波(兵部尚書)老生
楊公子(楊波の息子)小生
楊小姐(楊波の娘)旦
徐小姐(徐延昭の娘)旦
解説
「ああ、先王さま…!」
武装している徐小姐(徐延昭の娘)、幼い太子を抱えた楊小姐(楊波の娘)と共に李艶妃が登場。
楊、徐のふたりを追放してから幽閉されてしまった太子と李艶妃。後悔の念をうたいあげる。
そこへ楊、徐のふたりが登場。徐延昭の銅錘を預かった楊公子が門を叩く。徐小姐が李艶妃へと取り次ぐ。
いざ行こうとするが楊波は前漢の将・韓信と自分をなぞらえて徐延昭にこころの内を吐露する。
「忠義のある善良な者は長生きできません。閣下が寒宮にお入りになれどわたくしはいけません」
「何を恐れているのだ。先帝が漢の皇帝、国太が呂太后、賊の李良が蕭何丞相と比べられようか。そなたは韓信に匹敵する。ここは鴻門の会というならわたしが劉邦を守った樊噲の如く銅錘を以て守ろうぞ」
さらながら網にかかった魚のように恐れて混乱してしまったと落ち着きを取り戻して楊波は心を決める。
ふたりが入っていくと李艶妃が幼い太子を抱えて先帝を呼んで嘆く姿が。
ここからは三人の唱のやりとりがききどころ。
「わたしは心安らかにいられない。父はあの王莽のような野心をもって皇太子の地位を奪ったのです」
李良は李艶妃の実父であり皇太子の祖父、忠義者ではないかと(白々しくも)楊波、徐延昭が畳みかける。
「この国には徐、楊ふたりの奸臣は不要、追放されたではありませんか」
その通り。かつてふたりの諫言に耳を貸さなかった李艶妃だが父に幽閉されてしまった今、徐延昭に助力を求める。耳が遠く目もよく見えない白髪の自分は年をとったからと徐延昭は楊波を推薦する。楊波は恐れ多いと辞退を願う。
李艶妃は太子を抱えて跪く。
「君主が臣下に跪くとはなんと恐れ多い」
「すべては幼き太子のため。忠臣は徐、楊のふたり!奸臣はわが父李良!ふたりに任せられないならわたくしはここで死にます!」
李艶妃は幼い太子の後見にふさわしい地位を楊波に封ずる。
徐、楊のふたりは国の為、太子を皇位に就けるべく寒宮をあとにする。
鑑賞
徐延昭の娘と太子を抱えた楊波の娘、李艶妃が登場したのち徐延昭と楊波が登場。徐延昭は銅錘を楊公子に預け門を叩かせて徐小姐に取り次ぎを頼む。
「徐楊二家進宮!」
徐延昭:鄧沐瑋、楊波:王平、李艶妃:呂洋の三人がうたいあげるクライマックス
李艶妃[二黄原板]「你道他~」高音の響きが聴かせます。
そして三人が跪いでの[二黄二六]。ここでは忠義を尽くしても殺されてしまう李兄弟の話に及びます。
酒色におぼれてまつりごとをおろそかにしている周・懿王を諫め、処刑されることになった楊娘娘を逃がす李広。弟の李文は追手を阻み矢を受けて死ぬ。
李広が守った幼い太子の即位後、妃とその兄の讒言により李広は斬首される。三番目の弟・李剛は反乱を起こして仇を討つ。
忠臣は万古にその名を称えられると説得する李艶妃が例に出しているのは周の丞相・潘葛。妻子を身代わりにして暗殺から救われた蘇后は紫竹林で太子を産む。
唱の応酬が繰り広げられて、三人が立ち上がっての[二黄揺板]。
徐延昭が太子を抱え、太子を託される楊波。楊波を封ずる李艶妃で幕切れ。
こちらは徐延昭:王越、楊波:朱強、李艶妃:史依弘(史敏)の三人