中国京劇雑記帳

京劇 すごく面白い

京劇演目紹介《対花槍》(隋唐演義)

 

薄情者には正義の槍を

高齢にしてなお強く勇ましい女傑

 

あらすじ

  隋末。官吏登用試験を受けるため都へ向かう途中、病に倒れた羅芸は槍術をおさめる姜桂芝の父に助けられる。弟子となった羅芸は姜桂芝から槍術を教わり、ふたりは結婚する。羅芸は受験のため再び都へ向かうも戦乱に巻き込まれて音信不通となる。

 四十年後、息子と孫と共に暮らしていた姜桂芝は圧政に反発する天下の好漢が集う「瓦崗寨」に名だたる槍の使い手として羅芸がいることを知る。しかし、別に妻を娶り息子もいる羅芸は認めずしらを切る。怒った姜桂芝は槍を戦わせて羅芸を打ち負かし、一家の再会を果たす。

 

データ

 河南省の芝居・豫劇をもとに改編。老旦が唱と共に武技も魅せる痛快な芝居。「瓦崗寨」の英雄たちの立会いの下、槍を戦わせる場面はみどころ。関雅濃の作曲による唱がききどころ。

 

姜桂芝(槍術の使い手) 老旦

羅芸(姜桂芝の夫) 老生 

羅松(姜桂芝と羅芸の息子) 武老生

羅煥(姜桂芝と羅芸の孫) 娃娃生

羅成(羅芸の息子) 武生 

秦瓊(瓦崗寨の英雄のひとり) 老生

尤俊達(瓦崗寨の英雄のひとり) 丑

史大奈(瓦崗寨の英雄のひとり) 浄

程咬金(瓦崗寨の頭目) 浄

 

解説

 隋末。

 息子の羅松と孫の羅煥が槍を振るいあって鍛錬しているのを嬉しそうに眺める姜桂芝。父から伝えてきた姜家の槍術。その技を父に代わって教授したのが縁で夫となった羅芸が消息不明となってから四十年の月日が流れていた。 

 ある日、姜桂芝が住む村に「瓦崗寨」の史大奈と尤俊達が訪ねてくる。隋の煬帝の悪政に対抗する英雄たちが集う「瓦崗寨」。糧食を借りようと申し入れに来たふたりに姜桂芝は面会する。

「御夫人、あなたの家は武芸に通じているとか。この庭にも刀槍が並んでいますな」

 史大奈と尤俊達が訊ねると羅煥が元気に答える。

「我が家三代皆槍術を嗜んでいるよ」

「この坊ちゃんも槍を使うのか」

「腕前を披露していただけるかな」

「ぼくひとりで演舞するのもつまらないからおふたりも一緒にどうですか」

「坊ちゃんは我々を甘く見てるな。手合わせしてみるかい?」

 父の羅松が失礼を詫びる。ふたりは構わないと羅煥と槍を交わすもののあっという間に羅煥に負けてしまう。

「兄貴、この槍術…知ってるよな」

「ああ、明らかにこの槍術は羅成にそっくりだ」

 史大奈と尤俊達は身を以て感じる。

「おふたりとも。瓦崗寨には数多の英雄が集い、皆武芸に秀でていると聞きます。わたくしにも教えてくださいませんか」

 姜桂芝に促されてふたりは誇らしげに好漢英雄たちの名を次々と挙げていく。単雄信、秦瓊、王伯当、羅成…。

「槍使いの羅成はまだ年少ですが羅芸という老英雄がいます」

「羅芸?」

思いがけず聞いた名前に驚く姜桂芝。

「父でしょうか?」

「おばあ様、おじい様のことですか?」

羅松も羅煥も驚く。

 同姓同名ではないかと出身と年齢を訊ねるも、やはり行方不明になっていた羅芸そのひとだと三人は確信する。

「兄貴、伯母上がいらっしゃるって聞いたことねえんだが本当なのか?」

「本当だよ。この坊ちゃんの槍術は間違いない」

 史大奈と尤俊達も確信する。

「なるほど。この坊ちゃんの槍術は羅家の槍か!」

「違うよ。これは姜家のものだ。おじい様の槍術はもともとおばあ様が教えたものだよ」

「おふたりとも。この姜桂芝が息子と孫を連れていくとお伝え願いたい」

「では軍糧と一緒にお送りします」

「それでは」

 その場を辞する史大奈と尤俊達。

「こりゃひと悶着あるぞ」

「早く知らせにいくんだ」

 

 ところかわって「瓦崗寨」。姜桂芝が息子と孫を連れてくると聞かされた羅芸は人違いだとしらをきる。羅芸は秦瓊の身内を妻に迎えて羅成という息子がいた。

 羅成は父を疑うことなく、これは自分たち親子の不和を狙った政府の計略ではないかと言い出す。

 事情を全く知らない羅成は下山して槍をもって羅煥と対峙する。

「羅芸はぼくのおじい様だ!」

「おれの父上だぞ!」

 羅成は羅煥に敵わず一旦その場を退く。

 一方、羅芸に言われて成り行きを見届けに来た秦瓊は羅松と顔を合わせる。お互い身内だと知り、和やかに挨拶を交わす。

 そして史大奈、尤俊達と共に戦っている羅成と羅煥のもとに駆け付けて身内同士の争いを止めに入る。

「皆、姓は羅で槍術も同じ。皆同じ門下で一家だ」

 

 四十年前のこと。廟の前で病に倒れていたところを父が助けて連れ帰り弟子になった羅芸。父に代わり槍術を教えたことから結婚して子を身籠るも、志を遂げようと都へ赴いたきり行方がわからなくなってしまった夫…姜桂芝が羅芸との出会いから今に至る日々を思い出して浸っているところ、戻ってきた羅松と羅煥から羅芸が自分たちの存在を認めなかったと聞かされる。

「お母様、お父様は戻りません。わたくしが孝行いたします」

羅松がいたわりの言葉を投げかける。

「くっ…笑いものになるとは…!」

屈辱に怒り心頭の姜桂芝。羅松や秦瓊らがとりなすも心を決める。

「この姜氏、桂芝が受けて立ちます。羅芸に下山するよう伝えてください。不忠義者と戦わせてください!」

 瓦崗寨の頭目・程咬金の立会いの下、姜桂芝と羅芸は槍を交えることとなる。

 

羅芸を打ち負かす姜桂芝

 武装して登場する姜桂芝。

 ここの[高抜子]はテンポがいいききどころ。また、槍術を繰り出して羅芸を打ち負かす痛快な姿は見どころでもある。

 羅芸を「負心郎」(心変わりした恩知らず)と怒り、追い詰める。こてんぱんにやられる羅芸。手紙を何度も送ったものの届かず、なすすべがなかったのだと言い訳をする。

「羅芸よ、認めるのか認めないのか?」

勝負を見届ける外野は、元から明らかに羅芸に非があると見ていてやんややんやと愉快な雰囲気。

程咬金に問われてもうな垂れたままの羅芸。

「この槍はわたくしがあなたに教えたもの!」

毅然とした姜桂芝。

「はい、そうです。わたしの妻、妻のものです」

「ふん!」

 観念した羅芸を周りが許すよう懇願してとりなし、一家団欒となる。

 

鑑賞(1)

京劇《対花槍》の戯曲映画版 1時間38分40秒

 姜桂芝:袁慧琴

 羅芸:張建峰

 羅成:王璐

 羅煥:王岩

 羅松:靳学斌

 程咬金:李長春

 尤俊達:呂昆山

 史大奈:舒桐

 秦瓊:賈永全

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6:50 姜桂芝 登場

28:32 羅芸 登場

42:19 羅成 登場

1:15:28 程咬金 登場

1:22:20 鎧を纏って姜桂芝登場

 

鑑賞(2)

 こちらは豫劇(現在の河南省で生まれた演劇)《花槍縁》の1985年資料映像

 馬金風(当時63歳)が姜桂芝を演じています

 京劇とは全く異なる節回しと馬金風の艶ある演技をどうぞ

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