2023/09/03更新
京胡を触ってから3年くらい経ちます(2002年当時)。わたしの買った京胡は180元、当時のレートで2500円くらいです。授業を始める前に先生と一緒に近所の楽器屋に買いに行きました。そこには180元のものと520元のものしかなく、その間の値段のものは出払っていました。「始めてみて上手くなったら高いのにすればいいかな」と思って安い方に決めました。
褒めて伸ばす先生からは真面目で上達が早いとの有難い言葉をいただきました。でも習い始めて基本的な弾き方や音階がわかってくると《空城計》、次は《坐宮》や《捉放曹》…と自分の好きなところややってみたいところにいろいろ手を出しはじめて結局最後まで根気よく仕上げた曲は僅か…上手くならない人の典型です。
美しい京胡の音色を引き出すにあたって大切な作業ががあります。それは、松脂をつけること。
細い棒にきりたんぽ状で固まった松脂がついており、見た目はまるで水飴。その先端に火をつけ、筒と持ち手の竹の接点にかざします。熱さで溶けた松脂がぽたぽたと落ちて黒く固まります。
派手に燃え上がり黒い煙が出て京胡本体まで燃やしそう。でもこの松脂、あるのとないのとでは全然音が違います。黒く固まった松脂は弾くたびに擦れて白い粉になり、弓の馬の尻尾の毛にくっついてなじむと、なんということでしょう、目の醒めるような瑞々しい音色が。
とある公演の時のこと。芝居が盛り上がってきて一心に見入っている中、何やら焦げ臭い…一瞬火事かと思いきや、舞台向って右端に位置する楽隊の琴師が松脂を燃やしていたのでした。三日連続の公演中、その琴師は連日役者が芝居を熱演するその横で事も無げに松脂をつけ、素晴らしい音色を奏でておりました。
誰かが実際にうたっている伴奏となると、芝居が違えば唱詞も違う、人それぞれに唱の味付けが違うように、それに合わせて自在に弾くとなるとそれはやはりプロの世界。票友(アマチュア)が発表会をするときも楽隊はプロを揃えることが多いです。
一流の俳優には専属かつ一流の琴師がつきもの。アクシデントがつきものの生の舞台で、琴師は臨機応変に音を操ります。実際、そうして芝居の大事な間を救ってきた例は枚挙に暇がありません。役者の華やかな舞台は裏に真にプロフェッショナルな人たちがいてこそですね。