中国京劇雑記帳

京劇 すごく面白い

京劇演目紹介《蕭何月下追韓信》Xiao He yuexia zhui Han Xin

 

諸将は得易きのみ 信の如きに至りては

国の士に双つと無きなり

 

国士無双の武将を引き止めようと必死に追いかける功臣

麒派(麒麟童:周信芳)の名作のひとつ

 

 

あらすじ

 中華統一を果たした始皇帝崩御したのち、項羽 Xiang Yu 劉邦 Liu Bang が天下を分けて争っていた頃。

 

 

 劉邦の参謀・張良 Zhang Liang は優秀な人材を求めている中、項羽の軍に在籍していた韓信 Han Xin を見出す。

 項羽のもとで重用されていなかった韓信劉邦の軍を訪ねる。韓信の容貌を見て夏侯嬰 Xiahou Ying は只者ではない感じ、さっそく蕭何 Xaio He に会わせる。

 蕭何もまた韓信の聡明さを痛感し、嬉々として劉邦韓信を元帥に推薦する。しかし劉邦韓信の若いころの評判を聞き及んでいて決断しない。

 蕭何の再三の推薦にも応じられなかったのを知って、韓信劉邦のもとを去る決意をする。

 蕭何は馬に乗って韓信を必死で追いかけて行く。途中で樵に会って韓信の行方を聞き、さらに追いかける。

 追いついた蕭何から熱心に請われて韓信は再び劉邦の軍に戻る。

 韓信が持っていた張良からの推薦書を見せて礼を尽くして任命するよう、蕭何は改めて劉邦に進言する。劉邦は喜んで韓信を元帥として迎える。

 

蕭何(丞相・劉邦の臣下) 老生

韓信(武将) 武生

劉邦(漢王) 老生

夏侯嬰(昭平侯・劉邦の臣下) 丑

 

ポイント

 馬鞭を振るいながらぐるぐる歩き回る、韓信を必死に追いかけていく蕭何の演技がみどころ。

 濁声で語るようなうたと台詞回し、巧みな動きで「麒麟童」という名を馳せた周信芳の代表作。

 

韓信を追いかけてへとへとの蕭何

 

解説

 劉邦の軍を率いることとなった韓信

 めきめきと頭角を表して、劉邦項羽の天下分け目の戦いでは最大の功労者となる。

 項羽の軍を包囲した韓信は、項羽の故郷・楚の歌を兵士たちに歌わせる。それによって項羽の軍は味方の大半が敵に降ったと思い込み戦意を喪失して一気に形勢が傾く。

 「四面楚歌」という言葉はこの心理作戦がもととなっており、周りが敵だらけで助けもなく孤立することを意味する。

 

 

 国士無双の武将となった韓信ではあるが、無名のころは貧しく他人の家に身を寄せて世話を受ける生活を送っていた。

 喧嘩をふっかけてきた無頼の輩に対して歯向かうことなく、言われるままに相手の股の間をくぐり臆病者だと笑いものにされたという逸話がある。

 大志のために小さい恥辱に耐えて受け流さなければならないというたとえとして「韓信の股くぐり」という言葉になっている。

 

 狡兎死して走狗煮らるる。

 高鳥尽きて、良弓は蔵さる。

 

 すばしこい兎がつかまって死ねば、不要の猟犬は煮て食べられる。鳥がいなくなれば良弓も奥深くしまわれて役に立たなくなる。

 敵国が滅びると功臣も邪魔者にされて殺されるという意味。

 華々しい活躍をした韓信ではあるが、のちに有能さゆえに恐れられて死に追いやられることになる。

 

鑑賞

 京劇《蕭何月下追韓信

 北京・梅蘭芳大劇院 

 上海京劇院

陳少雲が蕭何を演じています。韓信が去ったところからご覧になれます。

youtu.be

 

麒派(麒麟童:周信芳)の味わいある芝居はこちら

麒派老生・陳少雲の代表作のひとつ

まだまだあります。これからもご紹介していきます。